虹の生まれた場所25 | 楽々主義

楽々主義

徒然なる日々

『ガンヌ、貴様一体誰の許可を得た。』
『若、今ここで彼を始末するのは、早計かと存じますよ。』
『聞いたのは私だ。』

ガンヌは片膝をついて続ける。
『出すぎた真似をしているのは、承知しておりますとも。しかし、私にも役目があります。若、貴方には学んでいただかなくては。
後に妖精を統べるべきお方になられるのです。常に前進、打って出ることだけでは、渡れぬ橋もございます。』

『ふん、言いよるではないか。貴様、覚悟あっての進言なのだろうな。』
傷を負い、肩で息をしながらも、王たる威厳は損なわれない。くぐってきた修羅場の違いを感じさせる。
まだ幼いリトスにさえ、それが伝わり、その緊張感に、疲労とは違う汗が滴った。

『ええ、心得ておりますとも。この地に赴くことが決まった時、既に私の命は若にお預けしてあります故。』
そして、このディルガインに比べるまでもなく
小さな女性も、また同様である。
先程までの微笑みは姿を消し、凄味すら感じさせる眼差しで、王を見据える。
忠心も、極めると最早脅迫に近い力をもつものなのか。全てを捧げる決意を滲ませる言葉には、魂が宿っているようであった。

ただ、黙っているしかできない。
人間社会には有り得ない光景だ。
勿論、去る日にはあったかもしれないが、今やここまでの主従関係を結ぶ君主と家臣はいないであろう。
危うき空気の中にも、互いの強い信頼関係がありありと浮かぶ。
絆というには、余りにも高貴な、純粋な想いの為せる高次元のやり取り。

長い沈黙を破ったのは、ディルガインだった。
『ふう、やれやれ、食えぬ食えぬ。何故ゆえバーハルト様が貴様を私に寄越したか、ようやく理解できたわ。』
『ふむ。有り難きお言葉。』
そう言いながら、双眸を崩すガンヌ。
空気が弛緩するのが分かった。
まるで、時間が止まっていたかのようであった。

『時に、少年。リトスよ。』
ガンヌが向き直る。
『君がもつ、その剣。アクノス。それを我々に預けてはくれぬか。
なに、悪いようにはしないさ。代わりの物は用意する。さらに、これから先、君の身辺に何かあれば、直ぐに我々が看護しよう。どうだ。』