「認知症かも?」と思ったら、自分でチェックをしてみましょう。家族がチェックするのもおすすめです。認知症専門医・朝田隆(あさだ たかし)さんの著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム刊)から、専門医が考えた認知症のチェックリストを紹介します。

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■認知症は60歳くらいから始まる

 80歳で認知症になる人は60歳から脳の病的変化が始まります。その後、認知機能は20年間という長い歳月をかけて衰えていきます。この記事では、認知症のチェックリストを『認知症の入り口』から『MCI(軽度認知障害)』と段階別に紹介します。

■『認知症の入り口』チェックリスト

【『認知症の入り口』チェックリスト】

身だしなみに気を配らなくなる

長年続けてきた趣味をふいにやめてしまう

社交的だった人が突然出不精になる

 認知症では一般的に、「記憶の低下」ばかりが注目されますが、じつはその入り口は、意欲の低下です。

 記憶より先に『意欲』が落ちるということは意外と知られていません。そして、その最初のサインが『めんどうくさい』。

 記憶は、脳の側頭葉にある海馬(かいば)という部分がつかさどっています。

 認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)になると、この海馬の機能が衰えてくるのですが、じつはその前に、前頭葉の機能が落ちてくることがあります。

 前頭葉はおでこの内側に位置し、意欲を生み出す、いわば「脳の司令塔」。

 この前頭葉の機能の衰えが、「意欲の低下」となって表れると考えられます。

 つまり、ここが認知症グレーゾーンの入り口です。

 その最初のサインである「めんどうくさい」という言葉が頻繁に口をつくようになり、上記チェックリストの兆候が見られたら要注意です。

 そして、この時期を見過ごすと、下記チェックリストのような、記憶の低下や、感情に関するトラブルが目立ち始めます。

 

【『認知症の入り口から進むと…』チェックリスト】

家族や親しい人の名前を間違えたり、思い出せなくなったりする

財布が小銭でいっぱいになる

家電の操作にとまどうようになる

イライラして怒りっぽくなる

ささいなことでパニックになる

■『MCI(軽度認知障害)』チェックリスト

【『MCI(軽度認知障害)』チェックリスト】

今何をしようとしていたか思い出せない

同じことを繰り返し言ったり、尋ねたりする

人と会う約束を忘れたことがある

探し物が多い

やろうとしても「まあいいか」とやめてしまう

長年の趣味が楽しめなくなった

外出が減った

段取りが下手になった

会計で小銭を使うのがめんどう

今日の日付が言えない

 認知症の前段階である認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)も、この「めんどうくさい」から始まります。

 認知症グレーゾーンは、日常生活に支障が出るほどではないけれど、「あれ?」「ちょっとおかしいな」と感じる状態です。

 チェック項目のうち、「最近これ、増えたなぁ」という項目が3個以上ある人は、認知症グレーゾーンの可能性があります。

 専門の医療機関で診断を受けるとともに、認知症の進行を遅らせる対策を行いましょう。

■MCI(軽度認知障害)『開眼片足立ち』テスト

【開眼片足立ちテストのやり方】

両足で立ちます。

目を開いたまま、何にもつかまらずに、片足で立ちます。体がふらつく人は、すぐにつかまることのできる壁の近くなどで行いましょう。

バランスが崩れ、手で壁などにふれたり、足が床についたら、そこで終了です。

 目安は20秒です。目を開いた状態で20秒以上、片足立ちができなかった人は、グレーゾーンの可能性あり。認知症の専門医を受診することをおすすめします。

 じつは、体のバランスがとりづらくなるのは、認知機能の低下が深く関係します。

 実際に、健康な中高年者(平均67歳)1387を対象に行った京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの調査では、この「開眼片足立ち」で20秒以上バランスを保てなかった人は、自覚症状がなくても、脳血管疾患や認知機能の低下のリスクが高いという結果が出ています。

 

■MCI(軽度認知障害)『時計描画』テスト

【時計描画テストのやり方】

10時10分の時計の絵を描いてください

 認知症グレーゾーンでも、かなり認知症に近い人は、目(視覚)から入った情報を処理し、空間全体のイメージをつかむ機能(視空間認知能力)が大幅に低下しています。

 時計の輪郭を丸く描けなかったり、1から12の数字を均等に描けなくなったりする時計の輪郭を丸く描けなかったり、1から12の数字を均等に描けなくなったりするのが特徴です。こうした傾向が見られたら、必ず専門医を受診してください。

■軽度認知障害『チューリップ、キツネ、ハトの回転』テスト

【『チューリップ回転テスト』のやり方】

両手の親指、小指、手首をつけてチューリップをつくります。

チューリップの形をキープしたまま両手を離します。

左右の手をお互いに逆方向に回転させて、左手の親指と右手の小指、左手の小指と右手の親指を合わせます。手を回転させる方向はどちらでも構いません。

【『キツネ回転テスト』のやり方】

左右の手でキツネの形をつくります。

キツネの形をキープしたまま、左手の人差し指と右手の小指、左手の小指と右手の人差し指をつけます。

 このとき、どちらかのキツネが自分のほうを向き、もう片方のキツネは外側を向いている「逆さギツネ」になっているはずです。

 しかし、頭頂葉の機能が衰えてくると、手を回転できずに、キツネが両方とも自分のほう、もしくは外側を向いてしまうことが非常に多いのです。

【『ハト回転テスト』のやり方】

胸の前くらいの位置で、両手の手のひらを開いて外側に向けます。

両手のひらが自分のほうを向くように回転させながら、両手を交差させます。

親指と親指を引っかけてハトの形をつくります。

 健常な脳の人にはとても簡単に思えますが、このハトのテストも、認知機能が衰えてくると、2.の手のひらを返すことができません。

 ハトの形がつくれたとしても、手のひらが外側を向いてしまっていることが非常によく見られます。

『チューリップ、キツネ、ハトの回転』テストでは、脳の頭頂葉の働きを確認することができます。

 頭頂葉は空間認識や、物の形や動きの認知をつかさどるため、ここの機能が衰えると、道に迷ったり、リモコンの操作ができなくなったり、服をうまく着られなくなったり(着衣失行)します。一つ前に紹介した、時計が描けなくなる例もその一つです。

■MCI(軽度認知障害)なら健康な脳に戻れることも

 認知症グレーゾーン(MCI:軽度認知障害)の状態で適切に対処をすれば、認知症の発症を遅らせることができます。

 さらには、健康な脳にUターンして戻ってこられる可能性も十分にあるのです。

 認知症は、発症する原因によって「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4種類に主に分けられますが、どの場合でも、放置しておく歳月が長くなるほどUターン(回復)が難しくなります。

 どうか、その「ちょっとおかしい」という直感を大切にしてください。

 もしそれが、認知症グレーゾーン(MCI)のサインだとすれば、認知症へ進む前にUターンして戻ってこられる最後のチャンスかもしれないのです。

朝田隆(あさだ たかし)