6年ぶりの長編。
正直、前作「騎士団長殺し」で打ち止めかと思っていました。
集大成的、言ってしまえば既視感、見憶え感が散見というか。
今回は文庫未収録の「街と、その不確かな壁」と
そこから派生した
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」
の書き直しとのこと(「あとがき」より)
まずは国会図書館から「街と、その不確かな壁」のコピーを取り寄せました。
文學界 1980年9月号 pp.46~99
初見。
これから「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」が生まれたのか。
「蛍」から「ノルウエイの森」のようにそのままで拡大という感じではない。
壁に囲まれた街という部分が共通している。
そして今回の「街とその不確かな壁」の第一部は
「街と、その不確かな壁」のリライト。
語られなかった周辺部が足されて結末が変わる。
「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は2つの世界が
交互に語られることにより静かな「壁の街」が際立ち
そしてそこがインナースペースである理由付けがなされる。
疾走感、喧噪と静の絡み合い。
最高傑作という人が多いのもわかる。
ちょっとエンタメ風味強め。
一方今作「街とその不確かな壁」
確かに650ページを一気に読ませる
文章力はすごい。
全体に静かな雰囲気。
でも、主人公に魅力を感じないし
先がどうなるかというワクワク感も希薄。
イベントを回収しないでほったらかすのはいつものことだけど
その「ほったらかし」に必然を感じない。
メインのストーリーに関わるような伏線の回収が過ぎると
予定調和になってしまう。
それをせず回収はされないけど「ほのめかし」て読者に
ある種の予感や印象を与えていたように感じられたのだが
今回は単なるほったらかし。
自分の読みが浅いのか?
今作の独自な部分は影と本体、主体と客体の区別の曖昧さがあると思うけど
これって数十年前のSF小説で良く扱われてたネタ。
初見だからこんな感想だけど
緻密に読み返せば新たな発見があるかもしれません。