引越しの日 | ここから見に来て。[旧Quem tudo quer, tudo perde.]

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ここは音楽のBlogでした。実際には節操無く何でも有りましたが、アメブロと相性が悪いようなので、他に書く事にしました。出来ればそちらを、よろしくお願いします。


あの頃


よく晴れた日の午後、ぼくは庭の芝生の上に大の字に寝そべって、青空に浮かぶ雲を見ていた。
手足から背中まで広がる芝生の葉先のチクチクした感じが気持ち良かった。
朽ちかけた垣根の間から流れ込む風が、もうそこまで秋が来ている事を知らせていた。

あした、引越しをする。この家ともさよならだ。
母さんは「そんなに遠くじゃないから」って言ったけど、すぐに他の人が入る事をぼくは知っていた。
父さんにも「今度の家は2階建てで、お前の部屋もある。」って言われたけど、芝生の庭が無いじゃないかって言いたかった。ぼくは、この小さな芝生の庭が大好きなんだ。

体を起こして小屋の方を見るとBOSSが前足の上にあごを乗せたまま、少しだけ目を開いて、こっちを見た。BOSSは、ぼくよりも1歳年上だからもう随分お爺さんのはずだ。でもそんな感じは全然しない。
きのう一緒に裏山へ遊びに行った時だって、いつもと同じ様にBOSSは、ぼくの少し前を歩きながらずっと回りを警戒していてくれた。

裏山のてっぺんから少し茂みに入ったところに木の生えていない小さな広場が有る。BOSSとぼくの秘密の広場だ。ここに座っていると色々な鳥や動物がぼくたちに会いに来てくれる。BOSSはずっと、裏山の王様だった。木々の間から漏れる光の下でのBOSSと動物たちの最後の挨拶は、本当に素敵だった。

BOSSは、強いだけじゃないし優しいだけでもない。頭だって凄く良いやつだ。どんな動物もBOSSに歯向かったりしないし、BOSSだって大人しくしていれば何もしやしない。BOSSと一緒なら何も怖いものなんかなかった。

でも、引っ越したら裏山までは遠いから駄目だと言われた。散歩も鎖を付けて行かなきゃいけないって、父さんが言っていた。BOSSには鎖も首輪も似合わないのに。無くたって何も悪い事なんてしないのに。

ぼくは少しだけ泣けた。引っ越しをしてこの家とサヨナラするせいなのか、それとも少しだけ秋を感じさせる風のせいなのか、自分でもよくわからなかった。
「よしっ!」ぼくは靴を履いてBOSSのそばに行った。BOSSは、ぼくが近くに来るのがわかるとゆっくりと起き上がって体をブルブルッとゆらした。

「BOSS!もう一度裏山に行こう!」ぼくは裏山に向かって歩き出した。いつもと同じ様にBOSSは、頭を上げ胸を凛と張り、ぼくの少し前を歩き出した。
帰ってきたらラジオを持ち出して芝生の上でBOSSと一緒に聴こう。シカゴが流れるといいな。それからエルトン・ジョンも。








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シカゴIII デラックス・エディション





Elton John
Madman Across the Water