エモ回帰ではなくバンド回帰!

 

アメリカはシカゴ出身のロックバンド、Fall Out Boy(フォール・アウト・ボーイ)の通算8枚目となる“So Much (for) Stardust”。

 

 

フォール・アウト・ボーイは、Good Charlotte(グッド・シャーロット)とともに、僕にとって青春のサウンドトラックと言っていいほど、全CDをコンプリートして聴き倒したし、単独公演があると田舎の愛媛からはるばる車を飛ばし大阪へ駆けつけたりと、本当に思い入れの強いバンドである。

極めつけは、ベーシストのピート・ウエンツに憧れすぎるあまり、エモヘアーに赤スキニー+素肌にパーカーと、今では考えられない・・・痛いとしか思えないファッションで大学生活を謳歌していた(笑)

 

 

そんなFOBだが、“Folie à deux”を挟んでからの活動休止後(この時期の単独公演で、ピートが客席に向かってアンコールはしないと宣言し、演奏後すぐにメンバーは舞台から去ってしまった。その時なんかおかしいなと思った記憶あり)となった。

当然ファンとしてはショックだったが、ボーカルのパトリック・スタンプのソロをチェックしたりと彼らに対する熱は冷めなかった。

 

その後、活動再開を果たし、“Save Rock and Roll”ロックンロールを救うというストレートなタイトルに期待大で聴いたが肩透かしを食らった。

確かにいい曲もあるのだが、エレクトロやダンス、R&B要素が極めて強くなり、肝心のロック度とバンド感は減退していた。(もともとブラック・ミュージックの影響があるためジャンルの変更は問題ないが、やはりバンド感がなくなったのは大きかった)

その後も2作品をリリースしたが、正直僕のFOB熱はどんどん冷めていくのだった。特に前作の“Mania”は決定的だった。

時流に乗りまくったEDMがあるわ、バンド感はほとんど聴けないわ、肝心の曲の出来も良くないわで失望したのを覚えている。

メタラーのジョー・トローマンとアンディ・ハーレーはこれで納得したのか?とか余計な心配までしたものだ(笑)

 

 

そんな“Mania”から5年。音楽レビューサイトでは、ギターミュージックに回帰したとか、黄金期の作品をプロデュースしたニール・アヴロンと再タッグを組んだとか、パトリックがインタビューで、“Folie à deux”の後に休止せずそのまま作品をリリースしていたらこんな作品になったのでは・・・と語っているのを見て、今回こそは!と期待大でCDを購入!

 

1."Love from the Other Side"

ピアノの旋律からオーケストラが入り、メタルばりのバンドサウンドがイン!

壮大なイントロから、あのパトリックの力強い歌声に感動!ザクザクミュートギターに、待ってましたと拳を振り上げたくなる!サビでアリーナ級のロックへ!最高のオープニング!

突っ走るようなパンクではなく、どっしりと構えたミドルテンポのロック。このバンドサウンド、随分待たされた(笑)

構成、音作りともに“Thnks fr th Mmrs”に近いか。

 

2."Heartbreak Feels So Good"

1.に引き続き、ギターサウンドが引っ張っていく。ニール・アヴロン三部作の一作目“From Under the Cork Tree”にあった性急さは、やはりここにもなく成熟した一皮むけたミドルテンポのロック。エレクトロとバンドサウンドのバランスが素晴らしい!パトリックも歌い上げまくっていて、聴いていて心地よい。

 

3.“Hold Me Like a Grudge”

ベースラインと、パトリックの歌い回しは、これまでも感じていたがマイケル・ジャクソンの影響がモロに伺える。こちらも壮大にサビ後のギターリフも気持ち良いし、ドラムも地味ながらちょっとした遊びも入れ、素晴らしいリズムを刻んでいる。

 

4."Fake Out"

最初の哀愁溢れまくるアルペジオを聴いた時点で、コレキタ感!囁くような優しいパトリックの歌声に鳥肌が立ち、サビの裏声でノックアウト(笑)字余りでコブシをきかせる歌声も久しぶりに聴けた気がして感動!どこか懐かしくて、夏を感じさせるサウンド。

 

5."Heaven, Iowa"

これまでとはガラリと変わり、ダークサイドな一面を見せる。静かな打ち込みから、サビで歌い上げる。二巡目からヘヴィなバンドサウンドか顔を出す展開が面白い。ロックというよりは、R&Bの比重が大きく、近作に近い。

 

6."So Good Right Now"

前曲とガラリと変わり、突き抜けて明るい楽曲。エレクトロな要素は微塵もなく、ギター・ポップと言って良い陽性でカラッと乾いたサウンド。「オーオーオー」がどキャッチー(笑)

 

7. "The Pink Seashell"

イーサン・ホークによる朗読

 

8."I Am My Own Muse"

オーケストラから超重量級のドラムが入る壮大なイントロ。今作中最も感情を顕にしているパトリックの歌声に引き込まれる。歌い回しはやはりマイコーの影響を感じさせる。ラストのサビ前、ギターソロが入るのが頼もしい。音量小さくてホントさり気なくだけど(笑)

 

 9."Flu Game"

 Panic! at the Disco(パニック・アット・ザ・ディスコ)を思わせるシアトリカルな楽曲。余談だが、近作では明らかにクオリティ面で弟分PATDにFOBは負けていたように思う。

 ヴァースのギターがいい仕事している。一聴時は地味に感じたが、何度も聴く内にその中毒性に気付いた頃にはハマっていた。

全編に渡り、ゴージャスな装飾か施された今作の中ではメロディ等含め若干弱いか。

 

10. "Baby Annihilation"

7.に続き朗読。こちらはおそらくピート・ウェンツによるもの。

 

11."The Kintsugi Kid (Ten Years)"

 「ロウロウロウライフ」の合いの手はR&B色を強く感じたが、バンドサウンドが入ってからは、ミュートギターもたまらんし、これぞR&Bとロックのミクスチャー!

 サビの「テンイヤーズ」も、哀愁ダダ漏れ!「ナッシングナッシング、ナーナーナーナーナーナー」もキャッチー!サビをなぞるシンセアレンジも気持ち良く言うことなし(笑)

 

12."What a Time to Be Alive"

モータウン色が強く、スムースなパトリックの歌声に酔いしれ、いつの間にかサウンドに体を委ねてしまっている自分がいる。

いや~、ゴージャス(笑)パトリックの歌声もスムース&セクシーでめちゃ贅沢!オーケストラに負けていないのが驚きとしか言いようがない!

今作中最も踊れる楽曲。ギターソロも超絶クール!モータウンとロックのミクスチャーサウンドに一発て殺られる(笑)

 

13. "So Much (for) Stardust"

ビアノリフかダーク&クール。ダークなトーンから壮大でゴージャスに展開するサビは圧巻。これは並のバンドにはできない。やはりパトリック・スタンプという稀代の歌声と才能を根幹にしていることが分かるし、こんなサウンド、彼ら以外のバンドにはできないだろう。終盤のドラムの乱れ打ちがロックを取り戻し勝利の音に聴こえて感動を覚える。

これほどまでに最終曲に相応しい曲があるだろうか?これまでバンドがチャレンジしてきたブラック・ミュージックとロックのクロスオーバーが見事になされている!これが現時点での彼らのやりたかった到達点ではないかと感じる。

 

 

やはり、ニール・アヴロンの、ドラムがカチッとしてサウンドが重たいミックスが素晴らしい。バンド感が戻っている!音だけで“Infinity on High”と“Folie à deux”を想起させるのだ。

中盤、若干弱い楽曲もあるが、パトリックの伸びのある迫力ヴォイスに圧倒され、そんなマイナス面も補って余りある。

 

当然、“From Under The Cork Tree”や“Infinity On High”にはクオリティ面で遠く及ばないが、単なる原点回帰ではなく現在進行形でバンドとして突き進む彼らを感じることができる。

 

旧来のファンが期待するエモやポップ・パンクも今作にはない。パトリックは、バンド・サウンドに回帰したことに対して、最近起こっているポップ・パンク・リヴァイバルとは無関係だと話している。

その通りで、ここで聴けるのは、かなりグルーヴィーに攻めるどちらかというとハードロックと言ってもいいサウンドだ。

近作に違和感を覚えているリスナーでも一聴の価値はある良作。

 

評価★★★★(星5つが満点)

 

 

オススメ曲

4. "Fake Out"

一聴して誰もが好きにならずにはいられない郷愁を感じさせるメロディ。涙腺刺激しまくりのキラーチューン。

 

12."What a Time to Be Alive"

モータウンとパンク・ロックが融合したような、超絶爆音グルーヴ曲!ギターリフの攻め具合にロックを感じる。

終盤にこんな飛び道具を持ってくるのが頼もしい。