田舎で羊飼いとして暮らすマリアとイングヴァル夫婦は、ある日羊から生まれた羊ではない“何か”を目撃する。夫婦はアダと名前を付け大事に育て始めるが、やがてこれまでの静かで平穏な生活にヒビが入っていき…というストーリー。
いや〜、とにかくアダが可愛過ぎる!!コレに尽きる(笑)
アダは、簡単に表現すると“半羊人”である!
生まれてきたアダは、最初は羊の顔だけしか写っておらず、それより下は毛布に包まれたりカメラワークで見えないようにされており、観ているこちら側はどんな姿なのだろうと、あらゆる想像を働かせることになる。
ストーリーについては、他の方のレビューを読むと、キリスト教や聖書といった暗喩があるようだが、それを抜きにしても最後まで正体不明の恐怖感や緊迫感、謎が立ち込めており途中退場を許さない。
夫婦の過去もフラッシュバックのように時折差し込まれており、暗い過去であることは間違いないのだが…、二人に一体何があったのだろうと想像してしまう。
更には、牧羊犬が何者かによって殺害されるのだが、誰が殺めたのか?もしやアダ?そうであって欲しくない…などと推理&感情移入してしまうという何重もの気になる要素を詰め込んでくる用意周到さ!(笑)
夫婦の過去が明らかになった時の、イングヴァルがアダを大事に育てる妻を見て苦悩する姿(アダが成長するに連れ、彼もまたアダにメロメロになるのだが)や、なぜマリアがアダという神様の悪戯で生まれたような子を何の迷いもなく受け入れたのか、すべてを納得させてしまう説得力といったら!
中盤から登場するイングヴァルの弟ペートゥル!。老けまくっているけど弟(笑)
それにしても、彼の初登場シーンに身に着けていたライダースにスキニージーンズとブーツという黒ずくめのロック・ファッション、カッコ良すぎる!
彼が3人の幸せな生活の中に入ってくることで、少しずつ不穏な空気が漂ってくる。何やら過去にマリアと不倫関係にあったようだし、アダの存在を認めず撃ち殺そうとしたり…。
しかし彼もまたアダの虜になる(笑)このキュートさには誰も抗えないのだ!
登場人物はほぼ3人+アダだけだし、ほぼ無音で時折差し込まれるのは不穏なBGMだけという、何もかも削ぎ落としたミニマル仕様!
ラスト、イングヴァルは成人の半羊人に銃弾を浴びて死亡する。
成人の半羊人がアダを連れて大自然の中に消えていく姿を見ていると、このままアダが人間と一緒に生活していても幸せは待っておらず、逆に不幸になってしまうのだろう、アダにとってはこれで良かったんだと感慨に耽ってしまった。
マリアは、夫の死亡とアダが行方不明になったことで、最初は取り乱しまくっていたが、何かを悟ったように(おそらく彼女のお腹の中には新たな生命が宿ったと思われる)最後は穏やかな表情となる。清々しく美しいラスト!
奇抜な設定にも関わらず、物凄いリアルさで有無を言わせず観ている者を圧倒する静かな力技!
で、やっぱりアダの愛らしさとリアルさ!途中、凶暴性が出現するのでは?と危惧したが、純粋で優しいままで一安心。だからこそ、イングヴァルと引き離される別れのシーンは切なさ倍増だった。
ホラーとしても楽しめるが、前述のようにスリラー、サスペンスとしても十分に楽しむことができるか怪作&良作!
評価★★★★(星5つが満点)