ジャンルの壁を越えた先に待つポップ玉手箱!

 

斉藤和義の6枚目のスタジオ・アルバム“Because(ビコーズ)”

 

 

前作“ジレンマ”が傑作だったため期待値が高かったこともあり、初めて通して今作を聴いてみて、音も軽いわ、なんか後半メロディも大したことないし、地味で残念な出来になったな・・・というのが正直な感想だった。

 

ただ、何度もリピートするうちに今作の懐の深さが分かってきた。自分が求めていたロック色は確かに減退している。しかし、その代わりにバラエティ豊かでカラフルな斉藤和義ワールドが展開されている!

 

 

1.“ジユウニナリタイ”は、前作の“幸福な朝食、退屈な夕食”の続編のような楽曲で、早口でまくし立てるボーカルと、バックコーラスの豪快な「自由になりたい」、「I Wanna be Free」が爽快感MAXなオープニングに相応しいロック・ナンバー。

2.“煮えきらない男”も、言葉遊びも楽しいシンプルなロックンロールを展開する。

 

3.“月影”は、前作の“進めなまけもの”の懐メロ&ポップ路線で、誰もが知る文句の付けようのない名バラード5.“歌うたいのバラッド”に勝るとも劣らない名曲だ。

 

対照的に、4.“Hey!Mr.Angryman”は滅茶苦茶ポップに弾けているし、投げやりで怒りを含んだ歌唱が印象的で、明確なサビ部分がなくフックで押していくというおもしろい構成で歌謡曲とロックの中間を進む7.“蝉”を挟み、8.“PAPARARA”はユニコーンや奥田民生が歌っていても違和感のないブギーと、軽快なポップ曲が続く。

 

さらに、6.“男と女”は、昭和歌謡で女性の視点から哀愁たっぷりと唄いあげ、10.“さよなら”では、まさかのフルオーケストラでスウィング・ジャズにまで触手を伸ばしている。

 

後半、9.“決断の日”のような安定の懐メロ系もしっかりと配置されているが、初聴時は、このバンドサウンドを放り出したり、ロック以外のジャンルに手を出していることにいちいち違和感を覚えたのだと思う。

しかし、斎藤和義=ロックという変な先入観を取っ払って聴いてみると、1曲1曲のアレンジの多彩さとメロディの美しさ、一人のシンガーソングライターがここまで情報量の多いサウンドを創り出せるとは・・・と、その懐の深さに感嘆せざるを得ない!

 

ラスト11.“I’m FREE”は、彼なりのけじめなのか、まるでガレージロックのような、かなりラフなミックスによるロック曲で締める。

 

 

〈自由〉で始まり〈自由〉に終わる。制限を設けず自由に創作されたであろう今作に対する斉藤和義の主張のように思えてくる。

よく考えれば彼はシンガーソングライターであるから、別にバンドサウンドにこだわる必要がなく、弾き語りでもフルオーケストラでも、下手したらエレクトロでもなんでも良いのだ。バンドではなく、あえてソロ名義で活動をする意味・・・それを考えると、今作のジャンルレスな作風に違和感がなくなった。

 

 

ロックにこだわらないことで、前作よりもさらに多くのリスナーに開かれた作品となり、さらなるブレイクを果たすための布石にもなったのであろう、斉藤和義流ポップ・ワールド全開の好盤。

 

オススメ曲

3.“月影”

この曲に出会ったのはつい最近なのに、聴くと一瞬にして青春時代にタイムスリップしてしまう!斉藤和義の魅力って、この懐かしくて甘酸っぱい記憶を瞬時にして蘇らせる魔法のメロディなんじゃないかと思う。

「あの時」を懐かしみつつも、前に進んでいこうとするポジティブな歌詞にも背中を押される。

 

5.“歌うたいのバラッド”

前作の“ドライブ”の方向性をさらに推し進めた名バラード。ストリングスを使用した壮大なアレンジは、まんまオアシス“ホワットエヴァー”なのはご愛嬌(笑)

歌詞もメロディもすべてが調和した、文句の付けようのないラブソング!斉藤和義のどこかぶっきらぼうな歌い方が、男の悲哀を感じさせるのもGood!

 

評価★★★★(星5つが満点)