本当の音楽好きに是非聴いてほしい、邦ロックの隠れた名盤!

 

曽我部恵一BANDによる3rd“曽我部恵一BAND”

 

 

1.のイントロが聴こえてきた瞬間、“キラキラ”と“ハピネス”の痛快なガレージ・パンク路線とは一線を画していることが分かる。

前半から重苦しくミドルテンポの楽曲が続き、更にはエレクトロ路線まで展開するのだ。しかも、これまでの2作は、各曲2〜3分台でトータル30分台だったのが、まさかの2倍のトータル70分台へ突如として突入!それだけアイデアが溢れまくって、バンドが乗りに乗っていたのだろうことが、油の乗った演奏の熱量からダイレクトに伝わってくる。

 

 

1.“ソング・フォー・シェルター”

ヒップホップのように早口でまくし立てるミドルテンポの楽曲。リードギターはカントリーのようで、リズム隊は相当に重い。曽我部恵一のボーカルがとにかくクールな名曲!

 

2.“恋をするなら”

1.と打って変わり、今作中最も爽やかな楽曲。演奏も軽やかで、これまでのソロ作品に収録されていても違和感がない。

 

3.“兵士の歌”

6分を超える壮大なフォーク・ソング。故郷から遠く離れた戦地で、死を間近に感じる男の心情が曽我部恵一の感情のこもった声で歌われる。

 

4.“クリムゾン”

曽我部恵一BAND流オルタナティブ・ロック。グランジと言っても良いくらい演奏も重い。単音リードギターも超絶クールだし、「愛の言葉を知ってる」からの転調もめちゃくちゃカッコいい!洋楽好きは絶対にハマるはず!

 

5.“ロックンロール”

ここに来て、まさかのキラーピコピコ電子サウンド!でもソロ作品を聴いてきた自分にとっては全く違和感はなく、メロディがキャッチャーで、浮遊感もありクセになる。

 

6.“街の冬”

実際に北海道で起こった姉妹の孤独死をモチーフにしているとのこと。そんな題材をポップなメロディに乗せて疾走する。サビ前の、「お姉ちゃんは何度も区役所へ 生活保護のお願いに だけど区役所のおじさんが言うには まあこういうことはそう簡単にはいかんのです 上にもちゃんと伝えておりますので」が衝撃的。

 

7.“月夜のメロディ”

物悲しいクリーンギターとベースラインのユニゾンから始まるバラード。ここでの曽我部恵一の声は、これまでにないくらい優しく温かく、リスナーに語りかけるように唄う。

 

8.“蘇生”

インタールード。凄い情報量とボリュームのため、一旦休憩(笑)

 

 

9.“サマーフェスティバル”

B面のオープニングに相応しい、今作中最もスピード感のある楽曲。イントロなんか、まるでBLINK182のようだし、パンクと言っても違和感無し。青春まっしぐらなメロディなのに、歌詞はといえば、サマーフェスティバルでボンヤリしたり寝転んでたら、取り残されるわ忘れられるわ、と何か哀愁や諦観なんかも感じさせる。

「人生は鼻歌のようにただ今日も流れてる」のラインなんか、とても詩的で曽我部恵一の只ならぬ才能を感じる。「シュビドゥビヤーヤーヤー」は合唱必至!ラストのドラムの連打も素晴らしくロックしてる!

 

10.“胸いっぱいの愛”

まるでデモのような(いや、デモのままか?)熱量が伝わってきて、これはこれで味がある。ラストのディストーションギター掻き鳴らしのノイズは、まるでダイナソーJr.のよう!

 

11.“夜の行進”

アコースティックギターの弾き語り。かなりラフな仕上がりで、バックに街の雑踏の音が聴こえたりする。このラフさは、曽我部恵一マニアとしては全然慣れているので気にならず(笑)

 

12.“サーカス”

サニーデイ・サービスのMUGENに入っていても違和感のないシティ・ポップ。

でもこのグルーヴはやっぱり曽我部恵一BANDならでは。夜の高速をドライブする時にはロマンチックに盛り上げてくれる(笑)

 

13.“たんぽぽ”

こちらもラフな弾き語り。バックでジーっとノイズが入ってる(笑)

 

14.“ポエジー”

歪んだギターのミュートしたリフが気持ちいい。音の刻み方かブギっぽいオルタナティブ・ロック。そこに乗っかる早口でまくし立てる曽我部恵一の声がクール!

 

15.“満員電車は走る”

ラストにまさかの大名曲!アコースティックギターと、儚い夢を語り出す曽我部恵一の優しい歌声から、中盤以降バンドサウンドが入り壮大に盛り上げる。

レコーディングバージョンも、これはこれでもちろん良いのだが、MVのライブバージョンが、生々しくて素晴らしいので是非観て欲しい!

 

 

10、11、13は収録せず、コンパクトにまとめることで、さらに聴きやすくて開かれた作品となったはず。でも、あえてこういった曲も入れ込んでくる。それも含めて愛すべき点で、捻くれていてロックでありパンク精神を感じ、愛聴してしまう!全曲に突出した個性かあり、主役になり得るクオリティを誇っている。それを一枚の作品としてまとめ上げる手腕!曽我部恵一の全作品の中でもトップクラスの迷うことなき名盤!

 

バンドメンバーの演奏も全編聴き所だが、特にドラムのオータコージがホントいい仕事してる!

ここ数年、曽我部恵一BAND名義での活動がないのが残念である。まあサニーデイ・サービスでの活動が活発化しているのであまり贅沢は言えないが…。またいつかこの4人のメンバーで創る作品を期待したい。

 

オススメ曲

6.“街の冬”

今作中最も明るくアップテンポでありながら、歌詞は最も暗く重たい。

生活保護を申請していたが受理されず、姉がなくなり、その後知的障害の妹が亡くなったという痛ましい事件をモチーフにしている。妹の視点から紡がれるストーリー。

 

お姉ちゃんと二人してお鍋を食べたというあたかなた思い出、賑やかな街を見ていたらこっちまで楽しくなると言い、夜は寒く縮こまって寝ていること、ある日天使がやってきてお姉ちゃんは目を閉じたままでドキドキした、といったことを淡々と物語る。そして、サビで「とっても仲のいい姉妹です」と繰り返す。

 

終盤繰り返される「街の冬が来ています」のライン、「街に」じゃなくて「街の」と持ってくるあたり、つくづく凄いなぁこの人と感心してしまうし、よくこんな歌詞をキラキラギターがひしめく音に乗せようと思ったな!と、そのセンスにただ脱帽。感動させようという嫌らしさか全く無いからこそ、聴くたびに涙が出てきてしまう。そして、唐突な終わり方も衝撃的!

 

7.“月夜のメロディ”

この曲の歌詞、どこを切り取っても詩になるほど素晴らしい。

ミスチルの桜井の歌詞が素晴らしいとよく耳にするが、僕はむしろ曽我部恵一の泥臭くもリアルで生活感が感じられる今作のような歌詞を支持したい。もちろんミスチルも桜井も好きです(笑)

歌詞の一部を紹介したかったけど、本当に素晴らし過ぎて切り取れなかったので、是非歌詞に注目して聴いてほしい。傷ついた心を洗い流してくれると同時に厳しい現実も見せつけられる。

ブレイク後の静寂から、単音クリーンギター、素晴らしいドラムが入ってくるパートは震えてしまうほど美しい。何でもない路地に一人佇み空を見上げている情景を想像してしまう。また、「トゥルル、トゥルル、トゥルルットゥー」の繰り返しも静かに余韻が残ることに貢献している。こちらも涙無しでは聴けない名曲。

 

評価★★★★★(星5つが満点)