第二次世界大戦中、田舎に疎開してホロコーストから逃れた一人の少年。疎開先の叔母が亡くなり家も焼失したため孤児になり、あちこちを転々とすることになる。周囲から差別や迫害を受けながらも強く生き抜いていく姿を描く。



暗く重たいストーリーに加えて、3時間の長さ、全編白黒映像という情報から、観始めるまでにかなりの覚悟が必要だった。
ただし、観始めると、少年の行く末が気になるのと、彼がたらい回しにされながら出会う登場人物毎にタイトルが出現しチャプターが分かれていることもあり、一気に観てしまった。

少年は、悪魔と罵られては暴力を振るわれ、更には肥溜めに突き落とされたりと、酷い仕打ちを受ける。また、ナチスによる無差別な銃乱射も目撃する。
そんな中、淡くも歪んだ初恋と性の目覚めも経験することになる。



確かに救いようがない。人々の悪意や偏見が少年の心と体を容赦なく傷付け蝕んでいくのは見るに耐えない。でも、そんな中で生きるために心(感情)を押し殺してまで生きていく少年の姿には、虚しくも勇気付けられている自分がいた。

少年にとっては全く救われなかったかもしれないが、ハーヴェイ・カイテル演じる心優しき神父や、バリー・ペッパー演じるドイツ兵の寡黙なスナイパーとの出会いは彼の人生や価値観を大きく変えていく。
前者は、どのような状況でもすべてに平等に優しさを貫くこと、後者は、環境や感情に流されず、冷静で、時には冷酷になること。少年にとっては、残念なことに後者が響いたようだ。



終盤、少年は父と再会しても一言も言葉を発さず涙一つ流さない。「自分の名前も忘れたのか?」という問いにも、何の反応も見せず感情を表さない少年の表情に、短い間に失ったものの重みが透けて見え、心が締め付けられる。

父と電車に揺られながら帰路に着くラストシーン。眠っている父の隣で、車窓に自分の名前を書く少年。あれだけ過酷な体験をしてもなお、自分を見失わなかった彼の姿に少しだけ救われた。

評価★★★(星5つが満点)