瀬戸内海に面した備後市で運送業者で働くヤス。妻美佐子と産まれたばかりのアキラの3人で幸せに暮らしていたが、ある日ヤスの働く作業場でアキラを庇って美佐子が事故死してしまう。ヤスは悲しみに暮れるも、不器用だが精一杯の愛情を注いでアキラを育てていく、という親子の絆を描いたドラマ。

 



先に原作を読んでいて、ヤスさん役は絶対千鳥の大悟しか考えられん!と思っていたし、展開を把握していたのでかなりハードルが上がっていた。それでも終始涙が止まらなかった。ここまで泣きっぱなしの映画は“レナードの朝”以来か。



ヤスさんを演じる阿部寛の、昭和の頑固親父を絵に描いたような不器用だけど熱く涙もろい哀愁溢れる演技に心を持っていかれた。彼が泣くだけで、自然にこちらも涙が溢れてきて、鑑賞中ずっ鼻をかんでいたし、観終わった後めっちゃ目腫れた!(笑)
それに、青年になったアキラを演じる北村匠海の、ヤスの愛情を受けて真っ直ぐに成長した姿はとても凛々しく好感が持てた。
その他のキャストも素晴らしく、ヤスの幼なじみの照雲役の安田顕、ヤスの姉御的存在のタエ子を演じる薬師丸ひろ子、尾藤社長役の宇梶剛士。彼らの人間味溢れる温かさがヤスとアキラを包んでいることが、痛いほど伝わってくる。



とにかく感動エピソードのオンパレードで、美佐子か亡くなるシーンはもちろん、雪が吹き荒れる冬の海での和尚の説教、タエ姉の娘との一瞬の交流、ヤスの父の病室での産まれさせてくれてありがとうとヤスが感謝を口にするシーン、アキラが野球部の伝統を言い訳に後輩いびりをして、ヤスが拳骨で顔を殴る体を張った父子の本気のぶつかり合い、アキラが東京へと旅立つ日のトイレの前でのヤスとアキラの会話…挙げたら切りが無い。





そんなに感動シーン連発されたらこっちが保たないよ…となったグッドタイミングで爆笑させてくれるのが、ヤスの職場の後輩役の濱田岳!アキラと後に妻となる杏演じる連れ子がいる由美の二人が、ヤスに結婚を考えていることを報告する重い場面に無理やり同行させられ、阿部寛の後ろにピンボケしたまま映り込みコミカルな動きを披露する。最高のセンス!(笑)

20年間を2時間20分に凝縮しているため全編見所になってしまうが、上手い具合に纏められている。
ただ、非常に惜しいのが、舞台が現在に映された際の北村匠海と杏の老後の姿。まず、特殊メイクがありえないくらい下手くそで、なんか安っぽい再現ドラマやコントを見せられているような気分になり、一瞬にして気分が萎えてしまった…。それに、あんな甲高い声のおじいさんはいないだろ!と思わず突っ込みたくなった(笑)
無理にヤスが亡くなった後を描く必要性も感じなかった。最後みんなで幸せに暮らしましたとさ!は劇中の海辺でのアキラと由美、連れ子3人の仲睦まじい姿、それを優しく見守るヤスさんの後ろ姿で十分に予見できる。
最後まで描かず、観る者に“その後”を想像させるくらいの余白があってもよかったのではないか?と思った。
すべてを描かないからこそ想像を掻き立てる。“マンチェスター・バイ・ザ・シー”や、“Dear フランキー”はその辺り本当に秀逸だ。すべてを映像として描く、老若男女、誰もが分かりやすく楽しんで観れるエンタメ映画の宿命ではあるのかもしれないが、そこだけは本当に残念…。

評価★★★★(星5つが満点)