フィリップ・シーモア・ホフマン演じるミッキーの息子が職場の工場で労働者に後頭部を殴打され死亡する。息子は人間のクズで、殴打されたのも人種差別発言など散々暴言を吐き、更にはナイフをチラつかせたことが原因だった。普段の横行も酷かったため、工場長は警察に事故だと説明し、他の目撃者も全員反論せず隠蔽され事故として処理される。

ミッキーの妻は事故に疑いの目を持ち、犯人を突き止めるようミッキーに詰め寄る。しかしミッキーも息子同様、金無し博打狂いのチンピラクズ男。葬式代も払えないサイテー男は犯人探しに乗り出すのだが…。

 

 

フィリップ・シーモア・ホフマン生前最期の作品という情報のみで鑑賞。

息子の葬式シーンから映画は始まり、息子が殺される三日前に遡る。入りはサスペンス映画という認識で観始める。ミッキーも裏稼業のようなことをしているし、途中ギャングみたいなチンピラも絡みだし不穏な雰囲気になってきて、クライム・サスペンス確定!とさらに期待感倍増。

しかし中盤ミッキーがクズ魂を発揮し、バーで集めた葬式代の寄付金をすべて競馬に使って負けてしまうところからガラッと様相が変わってくる。無一文になり、葬儀屋からも呆れられ、息子の死体を文字通りほっぽりだされてしまい、ミッキーは死体と一緒に彷徨う羽目になる。そんなこと悲しみに暮れる妻には口が裂けても言えるはずがなく、家にも置けないしで死後硬直した息子の隠し場所や扱いが分からず慌てふためく姿は、もはやドタバタコメディである。でもそんな姿にどうしようもない人間の性と悲哀を感じてしまう自分かいる。

 

 

ミッキー以外にも、リチャード・ジェンキンス演じるアル中ジャーナリスト、ジョン・タトゥーロ演じるミッキーの親友とその妻(クズで情けない登場人物ばかりの中で、唯一肝っ玉があり時に凶暴!)と、個性的なキャストのせいも多分にあると思うがとにかくキャラが濃ゆい!濃ゆすぎる!!

リチャード・ジェンキンスって、いろんな映画でよく見かけるが、こんなにも情けなくて変態的な役って演じたことあるのだろうか…。

 

 

終始濃ゆいおっさんばかり登場して、むさ苦しい中、救われるのがクリスティーナ・ヘンドリックス演じるミッキーの妻の存在。なんやこのゴージャスなBODYと全身から溢れ出まくる妖艶さは!そりゃジェンキンスおじさんも色欲にやられてスリスリするわ!(笑)

 

 

ミッキーの妻は寂しさからジェンキンスおじさんと浮気をしてしまう。それを知ったミッキーだったが、バーで絡まれ若者にボコボコにされていたジェンキンスおじさんを謎の正義感で救出しようとする。そんな姿にクズの中にも人間らしさがまだ残っていたのかという安堵の気持ちとやはり悲哀を感じてしまう。

 

観終わってみれば、閉鎖的な片田舎に住む名もなき住人が内輪で織り成すドタバタコメディだったことにようやく気付く。映画のように大きな事件は起こることなく、金もなく未来も決まっているどこにでもいる普通の人間たちを終始追っているだけ。それでも何故か飽きもせず観続けてしまうのは、登場人物の中にどうしようもないリアルな自分を見出して重ねてしまうからだと思う。

ラスト、街から出て重荷から開放されたミッキーの清々しい表情に少しだけ救われる。

悲哀と笑いって紙一重なんだな!

 

評価★★★(星5つが満点)