誠実さが生み出したロックの名盤!

 

UK,カンタベリー出身のロックバンドによる3rdアルバム、“I Don't Think I Can Do This Anymore”。

 

 

全曲素晴らしいメロディで溢れている。爽やかなのに切なさを合わせ持った独特のメロディ。作品をリリースする毎にメロディに磨きが掛かり、良曲を届けてくれる数少ない信頼のおけるバンドではあるが、まさかここまでの境地に到達するとは…!

作品ごとに実験や大きな変化はせず、ひたすらいい曲を書くことに専念している。過去作と変わった点と言えば、空間系のギターが多くなり若干壮大さが増したことくらいか。

 

今作は、ボーカル、ギター、ベース、ドラムの最小限の音しかなく、余計な装飾は一切ない。そのため、一聴しただけでは地味に感じるかもしれない。ここには曲を盛り上げる流麗なストリングスはないし、アクセントになるエレクトロや更にはピアノやキーボードすらない。バンドメンバーで出せる音のみが徹底して鳴らされている。その辺り、まるで頑固職人のようだ。

 

 

1. "Have I Told You Enough"。どっしりとした重厚なドラムとキラキラしたギターから始まる。今作への期待感が一気に高まるイントロ。ボーカルの声と単音で鳴らされるリードギターが入って爽やかに疾走し、サビでは壮大に盛り上げる。

2. "Talk in Your Sleep"と3. "Just Outside"も、キラキラしたイントロから始まるアップテンポの楽曲。ボーカルが入ると、高揚感の中にも切なさが一気に滲み出てくる。

特に "Just Outside"のサビ、「Oh come on

Why didn't you tell me」のところなんか、いつ聴いても胸を締め付けられる。

このすべての感情を引き受けて表現できる声は唯一無二!ボーカルEddy Brewertonの声質は、ビッフィ・クライロのサイモン・ニールからスコティッシュ訛りを取った感じか。

また、それに応えるコーラスワークも素晴らしい!

 

しかし今作、なんと言っても中盤以降に名曲多し!

洋楽あるある「序盤に名曲集結しすぎて中盤以降駄曲多い説」を完全に覆す内容となっている。トータル36分という短さを抜きにしても、最後まで同じテンションで一気に聴き終わってしまう。

8."Walk All Day with You"のクリーンギターでの弾き語りは、これまでのテンションから一気にクールダウンし、切なくしっとりと聴かせてくれる。

続く9. "Such a Shame"は打って変わって今作中最もアップテンポで激しく攻め、 10."Promise Me"は爽やかなミドルテンポで温かく包み込むような優しいメロディ、と様々な表情を見せていく。

最終曲の11."It's Too Much"は、これまでと印象がガラッと変わり、陰鬱なミドルテンポの楽曲。ここには爽やかさはなく、やり切れなさが全面に出てくる。ラストに相応しい聴く者に余韻を残す楽曲だ。

 

しかし全11曲本当に捨て曲が一切ない。単曲でも当然良いが、アルバム単位で聴くことで更にそれぞれが引き立ち、流れを含め一切妥協がなく完璧だ。

 

自分たちが創り出すメロディとメンバー同士、そして自分たちが奏でる演奏をひたすら信じて真っ直ぐに音楽と向き合っていることが、聴いていて痛いほどに伝わってくる。だからこんなにも心が揺り動かされるのだ。

 

まだまだこれから飛躍していくはずだったのに、ネットでの事実無根の告発により、現在バンドは活動休止状態となってしまっている。本当に残念で仕方ない…。

11."It's Too Much"の長く暗いトンネルの先にある光を次作で見たかった。

 

 

今作はエモという狭い括りで語られるべきではないし、ロック好きでこれを聴かないのは本当にもったいない。もっと多くの人に届いて欲しい捨て曲なしの名盤。

 

オススメ曲

All the Time

ミドルテンポでじっくり聴かせてくれる。壮大なサビでは心が張り裂けるような哀愁が爆発し、思わず涙腺が崩壊しそうになる。なんだろう、この冷たくやり切れなさの中にも温かさを感じるメロディは…。他の収録曲もそうだが、哀愁倍増効果をもたらすコーラスワークがとにかく素晴らしい。

 

Can We Stay Like This

アップテンポで爽やかな高揚感があるが、やはりどこかやり切れなさが顔を出し、それが心を打つ。ニューウェーブっぽいギターが入ってくるのも新鮮!ディレイがかかったクリアなギターワーク、コーラスワークともに丁寧で素晴らしい。

 

評価★★★★★(星5つが満点)