5,6年前に知り合ってから、忘れた頃に電話をかけてきては会いたがる男がいる。

情熱的な時間はとても短く、すぐに恋の対象でなくなった彼に私はずっと冷たかった。

彼の口のうまさや、女のだらしなさ、優柔不断さに辟易としたからだ。

それでも彼はめげずに会いたがる。

電話にでなくても、約束をすっぽかしても、他に好きな人がいるといってもめげない。

彼がヨーロッパに行ってしまう前に電話があったがそれもシカト。

半年後、ヨーロッパから帰ってきた彼から大晦日に電話があった。

シャンペンと言う言葉にひかれ、友人と連れ立って久々に彼と会う。

私たちのためにボトルを出してくれ、友人だと称するDJやバーテンダー達と大いに盛り上がる。

彼は終始私たちにやさしく、男らしくトリートしてくれた。

友人宅まで送ってもらい、数時間後外に出たら、男に声を掛けられた。

見ると先ほどまで一緒だった彼。

「たまたま近くで飲んでて、外に出たら君がいたからびっくりしたよ。」

びっくりなのはこっちじゃ!

なぜかいつも彼のペースに乗せられる。その日も結局逃げ切れず彼の家へ。

甘え擦り寄ってくる彼に、「触るな!寝れない!!」と一喝したらシュンとしてしまい罪悪感。

でも、聞き分けが良いのは彼のいいところ。根に持たない所も。

その後も私の友人宅に一緒にお邪魔し、皆に「彼氏?」と聞かれても

「全然。」と答える私を横目で見つつおとなしく、ニコニコしている。

次の週たまたま友人と飲んでいたら、彼から電話。

彼の好きなおいしいお酒を出すバーに行き、偶然他の友人達と会い盛り上がる。

勝手に盛り上がってる私の向かいで、顔見知りの私の友人と恋話をしている。

なんだか居心地のいい奴だ。

家の鍵を忘れた私はまた彼の家へ。

一晩中キスもさせず、他の男が好きだといっても、

「I love you,本当に君を愛してるよ。」

「君はぼくでも、誰とでもいいからつきあったほうがいい。」

「いつも自由に、好きな格好をしている君が好きだ。」

「君は本当に美しい。」

とまで言われて折れた。

久しぶりの彼とのメイクラブは懐かしくて、自然で、一晩中笑顔に満たされた。

お互いの将来のことや夢を語り合える、小物や洋服の趣味、食べたい場所や行きたい場所が同じで価値観も合う。

若くて子供だった時にはわからなかったけど、もしかしたら彼はとても私に合ってるのかも。

彼の家に行けば、居心地のいいソファー、ワイナリーに揃えられた贅沢なワイン。

フランスのシャンプーに、真っ白で大きなベッド。

ピンクの鼻が可愛いぶち猫。

いつも綺麗に磨かれた大きな靴。

彼はもしかしたらとても素敵な大人の男なのかも。

「自由に生きてる女は魅力的だ。」

と友人に言っていたという彼。

彼の過去に潜むダークな恐ろしい部分があるからこそ、こんなビッチな私にもやさしく甘く接する事が出来るんだろうな。

命を狙われ亡命してきた彼の本名を私はまだ知らないけど。