帰りがけの電車で、僕はドアの開閉口に陣取った。

そこは、自分のベストポジション。

小さいながらも見逃せない程の満足感を得た僕は、

手すりに体を預け、読みかけの小説に目を落とす。

伝説のチェスプレイヤーの生涯。

繊細な文体に大掛かりなプレイ描写。

その世界に引き込まれると専ら評判の小説。

傍らには、大学生らしい男女。少々、適度な遊びを経験してる風。

アルバイトの話、講義の話、いささか危険な体験の話。

素敵な物語は、現実の若者のトークに勝てなかった。

めちゃめちゃ興味をそそられてしまった。

その内容というより、彼らの話から浮き出る空気感。

今となっては若さの残骸も残っていない自分へのレクイエム。


無理に活字に目を落としてなんとか頁をめくった。

なにか少し悲しい気分になった。