ウンスの診療事件簿 26【失せ物編⑨】 | 壺中之天地 ~ シンイの世界にて

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韓国ドラマ【信義】の二次小説を書いています

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そしてその二日後の朝。

典医寺へやってきたウンスは直ぐに奥の個室へと向かった。

 

「おはようございます。

ソク先生、オム先生」

 

二人には二つの物を盗んだ犯人が分かったこと、それから服毒の経緯もわかりそうだと伝え、この奥の個室に来るよう頼んであった。

 

おはようございます、と挨拶を返す二人の顔色は、もう大分良いようだ。

 

「昨日は良く眠れましたか?

体調はいかがですか?」

 

「ええ。おかげさまでもうすっかり良いようです。

医仙様にはご迷惑をおかけしました」

 

「いいえ、医員として当然の事ですから」

 

余程骨身に染みたのか、それとも身体の毒と共に心の毒も出たのか、二人とも心なしか表情が柔らかくなっている。

だが、本題はこれからだ。

少々厳しい話になってくるかもしれないが、それでもうやむやにする気はない。

アニにもしっかり謝罪をして貰うつもりでいる。

 

「ところで医仙殿。

説明をして頂けると伺いましたが…」

 

侍医が早速切り出した。

話が早く聞きたい、といった様子だ。

 

「ええ。

実を言うと、先日の連続盗難事件とお二人の服毒事件については、関連性があると考えています」

 

「「何ですって?!」」

 

二人が驚いて声を上げた。

 

「一体…誰がそのようなことを…?」

 

「それについては順を追って説明します。まずはこれを…」

 

ウンスは袋から先日カラスの巣から見つかった物を取り出した。

 

「あっ、それは…!」

 

早速オム医員が反応する。

 

「やっぱりオム医員のものだったのですね。

これはここに薬草を詰め火をつけて、この先からその煙を吸う……そんな風に使う物ですよね?」

 

「え、ええ。そうです…」

 

「オム医員…あなた、時々この部屋でこれを吸っていませんでしたか?

匂いが残らないよう窓を開けて」

 

「確かに…なぜそれをご存知なのです…?」

 

やっぱりビンゴだ。

ウンスは自分の推理がほぼ正解だと確信した。

 

この細い筒状のものを見て、ウンスはこれが煙管だとピンときた。

その瞬間、あの匂いの正体を思い出したのだ。

嗅いだことがあるのは百年前じゃない。現代だ。

ウンス自身は全く習慣がなかった上に、高麗に来てしばらくその存在を忘れていたが…

あの匂いは間違いなく煙草の葉だ。

 

「オム医員が窓を開ける度、外からそれをずっと狙ってた者がいたんです」

 

「狙っていた…?これを盗もうと?」

 

「ええ、そうです」

 

「ではその者が毒を盛ったと?!」

 

「いいえ、それは違います。

だってそれを盗んだ犯人は…」

 

ウンスは窓を開けた。

 

「お二人共、外を見てください」

 

ウンスの指示に従い、侍医とオム医員は窓から顔を出す。

ウンスはコナラの木を指さした。

 

「あのコナラの木…カラスがいるでしょう?

あの木にある巣の中に、これも、私の器具もありました。

夫が突き止めてくれたのです」

 

ウンスの説明に、二人とも驚いたような唸り声を上げた。

意外な犯人に拍子抜けしたようだ。

 

「まさかカラスとは…」

 

「カラスはこの部屋の中に面白そうなものが沢山あることを知っていたようです。

それで人が離れる隙を狙い、侵入して持っていったのね。

信じられないなら、試してみます?」

 

これを使ってね、と煙管を軽く振ると、オム医員はぶるぶると首を横に振った。

 

「では医仙殿。

毒は一体誰が入れたのですか?」

 

「毒は…オム医員が吸っていた薬草です。

オム医員、その葉をお茶に入れられましたよね?」

 

「ええ、しかしこれは毒なんかでは…!

医仙様はご存知ないでしょうが、とても貴重な強壮作用のある薬草なのです。

実際とても頭がすっきりし、体も軽くなる。

それは私が保証します!」

 

オム医員は必死で否定した。

 

「…一体どう言うことなのだ…」

 

侍医がウンスとオム医員を見比べ、困惑したような表情を浮かべる。

どっちを信じるべきか、迷っているのだろう。

 

「生憎ですけど、その薬草に関しては私の方が詳しいと思います。

正しい方法で摂取すればすぐに健康を損なうことはなく、むしろ精神的な満足を得ることもできるため、天界でも嗜好品として好まれていましたから」

 

「では医仙様もこれが毒ではないとお分かりではないですか…!」

 

「ええ。

問題は、決して口にしてはいけなかったってこと。

経口すれば、即効性のある毒になるんです」

 

「しかし、これを売った商人の中には、直接口に入れ噛んでいる者もいました…!」

 

「噛みタバコね…その唾液は決して飲み込んじゃいけないって、注意は受けなかったですか?」

 

「そんな…」

 

ようやく事の責任が自分にあると分かったのか、オム医員はがっくりと項垂れた。