「なぜ電気自動車なのか」と問われれば、僕は少し腕組みをしてから、「いやなに、偶然行き当たっただけですよ」と嘯(うそぶ)くことにしている。
僕の愛車は、三菱のミニキャブ・ミーブ。しかも、ちょっとマニアックな10.5kWhのバッテリーを積んだ奴だ。軽トラでも高級SUVでもなく、働く商用バン。見た目はどこからどう見ても、街の電気屋さんがハシゴを括り付けて走らせているあの車そのものである。
だが、こいつの魅力と言ったらどうだ。
キーを捻り(そう、電気のくせにちゃんと鍵を回すのだ)、アクセルを軽く踏み込む。すると、ガソリン車特有の「ブォン」という野暮な唸り声はいっさい聞こえず、まるで滑らかな氷の上を滑るように、するりと車体が前に出る。この無音の加速感! 背中に荷物を満載していようが、坂道であろうが、モーターは嫌な顔ひとつせず、静かで豊かなトルクを溢れさせてみせる。
たしかに10.5kWhという容量は、現代の航続距離競争から見れば控えめもいいところだ。調子に乗ってエアコンを効かせ、遠出などしようものなら、メーターの電池残量はハラハラする勢いで減っていく。だが、そこがいいのではないか。
残量を気にしながらのドライブは、どこか昔の旅の情趣に似ている。「次の急速充電スタンドまで、あと20キロか……よし、回生ブレーキを上手に使って、電力を稼ぐとしよう」などと、車と対話しながら走る感覚。便利すぎる世界に生きる僕たちにとって、この「ちょっとした不便と工夫」こそが、失われたドライブの愉悦を取り戻してくれるのだ。
仕事を終えた夕暮れ時、静まりかえった車内で好きな音楽を流しながら、軽快に街を走り抜ける。それはまるで、動く小さな書斎であり、秘密基地でもある。無骨な働く車でありながら、どこか愛らしく、そして未来の匂いがする。僕はこの小さくも誇り高き相棒と走る時間を、すこぶる気に入っているのである。
