[書遊び] 「徒然草」 <九十二段①・或人>


⭐lightです。

『或人、弓射る事を習ふに、諸矢(もろや)を

 たばさみて、的(まと)に向ふ。師の云はく

 「初心の人、二つの矢を持つ事なかれ。後(

 のち)の矢を頼みて、始めの矢に、等閑(な

 ほざり)の心あり。毎度、ただ、得失なく、

 この一矢(ひとや)に定むべしと思え」と

 云ふ。』       卜部(吉田)兼好


(訳)ある人が、弓を習う場で、対の矢を手に

   はさみ持って的に向かった所、師が言わ

   れた。


       「初心の人は、二本の矢を持って

   はならない。もう一本あるという気持ち

   が出て、最初の一本を疎かにしがちであ

   る。毎回、この一本で決めると思へ」と。


●[諸矢(もろや)]

    甲矢(はや)と乙矢(おとや)という

               一対二本の矢。



出家する場合、二つの道があるそうです。

 第一は、年少で寺院に入り剃髪して「沙弥戒

 (しゃみかい)」を受けて、沙弥又は沙弥尼

 となり、その後数年修業した後に「具足戒(

 ぐそくかい)」を受けて、正式に比丘(びく)

 又は比丘尼(びくに)となる道です。


 第二は、中年以後に出家・剃髪して「沙弥戒」

 を受け、官職を離れるけれども、宗派や寺院

 に帰属せず、「具足戒」も受けることなく、

 一生そのままの道です。


 兼好さんは、第二の道で、素性法師さんや

 西行法師さんと同様に、「兼好法師」


  として過ごしたそうです。   

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