今年の東日本の8月は色々な意味で記録に残る年になりました。

いわゆる「御一新(大政奉還)」以来でさえワースト1位の「日照時間の無さ」は地味に心身を蝕み、8月にインフルエンザや肺炎が流行し、遮るもののない土手にシダ植物が繁茂する不気味な現象が発生しております。

9月に入ってからは殊更この傾向は強まり、夜間に気温が自由落下の如く急落しては日中に戻す、晩秋にも近い変動が頻発しております。

 

多湿で日照が無いと、着水型のパラサイトはとどまるところを知らず広範囲に伝播し、長い時間活性を維持してしまいます。この夏、金魚飼育者を苦しめた代表的な疾病に「白点病」「鰓病」があげられますが、100年を単位として振り返っても、間違いなく今年はこれ以上無い最悪の条件が整ってしまったワースト1位の夏となりました。

 

空中から着水したパラサイトは、金魚の表皮に「隙」があれば見逃さずに活着し、活着に成功した個体が多ければ多いほど直ちに病変が発生します。

パラサイトの着水が防止できない以上、魚体の「隙」を作らないことが飼育管理の要となりますが、この「隙」とは、表皮のスレやヌルの剥離等を指します。

金魚の表皮を覆う「ヌル」は、

1)直接の物理的な刺激(異物でこすってしまったり等)

2)不適切な飼料(ヌルの産生を妨げる飼料)

3)水質の悪化・汚染

4)あらゆる意味でのストレス

5)水温やPHの急変動

この5つの要因によって容易に剥離したり、部分的に失われてしまうものです。

(1)~(4)の要因は飼育者様の日頃の努力で可能な限り減らしていけるものですが、(5)の要素は、特に溶存酸素量が問題にならない夏から秋の水温低下時には見逃されがちになります。

※以前のブログで水温が上昇すると溶存酸素量が減少することは申し上げました。逆に水温が下がると溶存酸素量が増量するので、魚は呼吸が楽になります。

 

夏から秋に変わる今こそ、ヒーターの活用シーズンです。

ヒーターというと兎角「水温を上げるもの」として使用されることが多いものですが、金魚のヒーターとは水温急低下時の「クッション」として使われる方が遥かに有用です。

日中水温マイナス2~3℃に設定をしたヒーターを使用することで、夜間~早朝の急落を防止し、ヌルの剥離を最小にしていく管理の助けとなります。

ここで肝心なのは、ヒーターによる水温固定に陥ってはならない、という点です。

必ず日中水温よりも低くヒーターは設置をし、計画的に水温設定を下げていく必要があります。水温固定管理になるならば、ある意味ではやらないほうがマシです。

金魚は春夏秋冬、気温(水温)変動以外に「紫外線量」で季節を感知します。

今年ほど日照の無い夏でさえ、降り注ぐ紫外線の量は例年通りでありました。

温度刺激と光(紫外線)刺激は複合して金魚に季節を教えます。冬季の単純なヒーター管理では、金魚の体力を徒に消耗するだけである場合も少なくありません。

 

加えて、段階的に水温を落とすことは、金魚の内分泌を正常に整える助けにもなります。

以前から、金魚には夏の代謝と冬の代謝、2つの側面があることが知られていましたが、夏と冬で何が決定的に異なるのか?その手がかりとして以下の研究が今年発表されました。

Fish sauced? Goldfish turn to alcohol to survive icy winters

(魚は酔っぱらう?金魚は氷の下でアルコールを産生して生き延びる)

http://www.bbc.com/news/science-environment-40899192

漠然と語られていた夏と冬の違いに、ここまでの明瞭な差異があれば、どたな様にもご理解がいただけるものと存じます。

水温低下に伴い、金魚は血液を酸性に傾けます。

これが内的要因であるのか、他の理由によるものなのかは良く知られていませんが、血液が酸性になると、ひきずられるように他の代謝が低下し、所謂「冬眠状態」に近づくことが判明しております。

ただ冬眠状態になるだけならば良いのですが、体の一部分が起きているままで中途半端に冬代謝に入ってしまうと、消化器系でトラブルが発生し、多くは「浮き」「背焼け」の状態が発生します。これが重篤化すると致死的な「転覆」に至り、それはまた別の話になるので今回は置いておきますが、肝心なのは「血液を急激に酸性に傾けてはならない」という点にあります。

階段を下りるように段階的に水温が下がり、氷点下に至りさえすれば、金魚は持ち前の頑健さで「健全な」冬代謝を発動して氷の中でさえも生き延びることができます。しかし、不健全な冬代謝が通常時に発生すると所謂「内分泌的な疾病」の様相を呈し、それは往々にしてリカバリーに難儀するものです。

 

この時期の水温の急降下は、金魚の代謝を中途半端な冬仕様に強制的に入れてしまうトリガーとなり、不十分な状態で発動した「冬代謝」は深刻なトラブルの引き金になり得る。と、御記憶ください。

 

文責:水棲疾病基盤研究所