日本金魚の文化的側面とは、
金魚の辿った歴史的経緯がそのまま反映されていると言っても過言ではない。

大名家や有力寺社のものであった時代から、豪奢の象徴であった淀屋辰五郎の江戸初期、痘瘡神の依代となり、花魁にささげられた江戸中期、
そして江戸後期~末期にかけて金魚は中間層へと降りてくるのだが、

これらを象徴する戯作に山東京伝(1761-1816)作の「梅花氷裂」がある。
これは、水木しげる氏の作品にある「金魚の幽霊」の原典として、妖怪マニアには有名な作品なのだが、その粗筋からは幾つもの事項が読み取れて非常に興味深い。

冒頭は、
「南北朝時代に信濃の殿様に仕える家臣が、
 堺の商人に頼んで明国渡来の金魚を求めさせて殿様に献上する」

こういったエピソードから物語が始まるのだが、ここからは
・金魚渡来が外国からであったこと、珍品は上方よりやってくるを山東氏が知っていた。
・南北朝時代というのは「むかしむかし」の比喩であり、爺さんのまた爺さんの爺さんが生きていた頃程度の時間感覚と見られる。

つまり江戸時代よりも昔、信長・秀吉の時代より昔、ということを山東氏は知っていた。
この2つの事象が読み取れるのである。

つづく。