無趣味で独身だったから、飲みに出るくらいしか楽しみがなかった
週に何回かのペースで居酒屋に行く――「いつもの」と言うと升酒とイカのゴロ焼きが出てくる
それでテレビの野球中継を見ていると、茶の間にいるようなものだった
転勤するとき、この居酒屋のご夫婦から餞別を貰った
後にも先にも飲食店から餞別を貰ったのはこの時だけである
近頃、夫婦ではまっているのは近所(と言っても車で行く)の担々麺の店である
妻は定番の特製担々麺を、私は酸辣湯麺とカメ出し紹興酒をグラス一杯
店の女将さんが愛嬌のある人で、一丁離れたところに移転する時はその内装写真を見せてくれた――
私たちはこの店の「中国の食堂」然とした造りが好きだった
新しい店は、今風のラーメン屋によくある小綺麗な内装だった……私たちはそれを褒めた
雑誌で紹介されて客足が爆発的に増えた時、店内を駆け回って接客する女将さんに「大変ですね」と言うと「お腹すいた~」と笑顔が返ってきた
こんな店だから、私たちは終始ニコニコしている
バイトの兄ちゃんの気が利かなくても、多少の粗相があっても、この店の料理は美味しい
――笑顔って、大事な調味料だよな、と思う
さて、引っ越しの荷物整理で、こんな額が出てきた

台湾の竹の貼り絵
駅前通りにあった『台湾酒店』のご主人の里帰りのお土産だ
間口の狭い台湾料理屋で、ご主人が一人でやっていた
夫婦で行って私がアルコール(中国酒)を注文すると「奥さんにも」とちょっと珍しいあちら風のソフトドリンクをサービスしてくれた
この店のご主人と、特に詳しく会話した、という記憶はない
ただ何となく気に入り、駅前ならここ!と決めていた
妻が里帰りの時は私一人で、私が出張の時は妻が一人で行った
ある日、家に帰ると玄関にこの竹の絵が飾ってあって、なに?と聞くと
ご主人が台湾で買ってきたお土産だという
――俺たち、そんなに良い客だったかな?
こんな嵩張るもの、大量に買い込んだとは思えない、勘ぐれば渡す予定だった人にあげられなくて余ったのかもしれない
でも、あの店、なんか好きなんだよねえ、と夫婦で話した
その後、ご主人は店を畳んで台湾に帰り、私たちは「行きつけの店」を失った
もう会うこともないだろう、会ってもお互い顔も覚えていないだろう
今、改めてこの絵を見て
「相性」ってあるよなあ、と思う
仏教風に言えば「他生の縁」――前世で知り合いだったのかも知れない
この台湾酒店の料理、もう味は思い出せない
腎機能に不安のある私にとっては、チト塩分が強かったかな、と思うばかりだ
結局、私たちは料理の味以上に、このご主人と接する居心地の良さ――
「相性」を食べていたような気がするのである