■材質について

  楓は木としては硬くもなく柔らかくもなく、中間的な性質の材料となります。

  ファゴットの場合はサイズが大きいため、硬い材料を使うと

  重くなりすぎるという事情もあり、伝統的に楓が使用されています。

 

  湿度の影響を受けたり、経年変化で

  木が動くため、木材段階での寝かしが重要となりますが、

  寝かすための場所の確保、管理の費用、不良材の費用負担など

  丁寧にやるほどに費用がかかることが想像できます。

 

  余談ですが、現代のオーボエやクラリネットの材料は

  木と呼ぶにはあまりにも硬いものなので、

  極限すると真正の木管楽器はオーケストラの中ではファゴットと

  コントラファゴットだけであると思っています。

 

  楓は他の用途に用いられることがそこまで多くはないので、

  資源の枯渇はそんなに心配しなくていいようですが、

  良い楽器になる木は最適な自然環境の中、

  手入れや管理が行き届いた森でしか製造できないため、

  なかなか手に入りづらいようで、楽器の高騰の原因として説明されます。  

 

■加工について

  楽器の加工のためには工具、工作機械などの設備や、

  技術者の人件費がかかってくることになります。

  ファゴットは制作本数が少ないことから多くのメーカでは

  機械化を進めてもスケールメリットを得るのは難しそうです。

  作成プロセスの複雑さもあり、手作りの部分が

  まだまだ大きいのが実態かと思います。

 

  特に人件費は近年ものすごく高騰しています。

  ファゴットは高価と言われますが、むしろ安い楽器はどうして

  その金額で作れてしまうのか首をかしげたくなります。

  人の手間を省けばその分楽器は安くできますが、

  できたものは見た目からして満足いくものにはなりません。

 

  この点、ファゴットは弦楽器と同じで、最高のものは

  最大に手間をかけて作られ、美術品とは言いすぎにしても、

  工芸品として一級のものでなければならないと思います。

 

■メーカーについての雑感

 ・ヘッケル

  最高の木材を使い、少しずつ加工する手間をかけて木の動き・変化を最小限に

  している。

  オプション・特注について、できることは何でもやるというのが、

  製造上の他のメーカとの絶対的な違い。

  手作りなので、要望にはなんでも応えられると言っている。

  色々と他のメーカとは真逆。

  ドイツやチェコのメーカーが第2次世界大戦で壊滅したなか、

  被害が少なかった幸運も唯一無二の地位を築いた一因かもしれない。

 

  100年前の楽器でもメンテナンスされたものは実用に耐え、

  それなりの値段で取引されているというのは、

  他のメーカーでは考えられない。

  そして、100年前の楽器であっても、ヘッケルはヘッケルを感じ

  させる音がする。

 

  「良い楽器とは、ヘッケルの良い楽器」

  「ファゴットのストラディヴァリウス」

  「楽器の王にして、王の楽器」

  「The Bassoon」

  「ヘッケルは無限」

  「ヘッケル だけがファゴットとは何かを知って作っている」

 

  他のメーカーの楽器は、音程や音程のコントロールでオケでの仕事が

  やりやすい、ということはあるかもしれないが、表現の多彩さ、

  音の演達性という点では圧倒的に違いがあると思います。

 

  手作り故、ヘッケル も同じ楽器は作れない、と言っており、

  楽器の作りはバラバラ。純正部品を取り寄せてもそのままではつかない、

  ということも当たり前。

 

  ヘッケルの寿命は人間より長く、

  古い楽器を手にしたときは、その前に何人かの吹き手がいて、

  それを引き継ぐことになる。

  新品で買った場合は、死ぬときには誰かに引き継ぐことになる。

  どの楽器より高い価格だが、状態を悪くしなければ、必ず買った時よりは

  高く売れる資産となる。

  元手さえあれば、もっともコストパフォーマンスの高い楽器と

  言うことができる。

 

  常に改良や小変更も行われており、どのメーカよりも変化・進化を続けている

  楽器だが、いろいろなものを吹きくらべることが簡単ではないので、

  食わず嫌いというか、いろいろ誤った情報も目にすることが多い。

  実際に手にしたことがない人がいろいろな噂を広めたり、最近の楽器の進化

  を前提にしない古い情報を聞いて信じてしまっているようだ。

 

  実際に状態のいい楽器を吹いてしまうと、ヘッケルから離れるのは難しい。

  プロ奏者でのシェアはやはり圧倒的。

  ここ10年ほどの楽器の完成度は非常に高い模様で、買い替えの需要も高い。

 

  最近の楽器は表現の可能性がかなり広いが体力も必要で、オーバーブロー

  させるのはかなり大変。

 

  そんなヘッケルでも欠点もいろいろあり、特に見えないところの

  作りは結構いい加減で、新品の時にしっかり確認する必要がある。

  中古でも木を削ったりするような改造が入っていないか確認する必要がある。

 

  新品であっても内径やトーンポールにまあまあ大きいダメージがあって、

  音に影響でることもあるなど、しばしばみられる作りのテキトーさは、

  品質の高いメーカーでは考えられない。

  文句を言っても対応してもらえない殿様商売なので、でそういう面にも

  対応し受け入れていくことが奏者に求められる楽器。

 

 

 ・フォックス

  高いモデルから100万円を切る入門機もあり、楽器製造の幅が広い。

  他のメーカーとは桁違いの数量の楽器を作っており、コストと品質のバランス

  を上手にとりながらあらゆる層のユーザに対応できる楽器作りをしている。

 

  ヘッケルを研究しておりその変化に唯一追従しているメーカー。

  とはいえコピー品にはならず、独自のアイデンティティを感じさせてくれる

  点も素晴らしい。

 

  吹奏感はヘッケルに比べるとかなり軽め。

  吹き込むと限界も早く、軽く吹いていく感じが合っているように感じる。

 

  音程がとにかく良いし、キーの作りなど品質面もしっかりしている。

  木材も4種類ぐらい用意されており、用途に応じた選択も可能。

 

  国や地域別に仕様やピッチを変えて出荷しており、ヨーロッパ向けのモデルは

  本国型番の末尾にD(ドイツ)が付きハイピッチでヘッケル寄りの楽器を

  販売しているとのこと。

 

  日本のある代理店は日本語の情報は型番からして本国と違うなど、

  意図的に情報をマスクしているようで好感が持てない。

  英語で検索するとフィルターがかかっていない具体的な情報が得られる。

  メーカー自身はどのメーカよりも率直に情報開示しており良い印象。

 

  パーツもネジ一本から供給があるのでヤマハと同じくアフターが安心。

 

 ・ヤマハ

  経済成長しインフレが進む欧米の高くなる一方の楽器に比べて、

  コスト面での優位が増している。プロに選択してもらえる楽器としては

  最安と言える。

 

  ヘッケルの8000番台を13000番台のコピーするところから短期間で製品化、

  現在2種類の楽器が販売されている。

  フォックスのような細管=安い、太管=高い、という価格設定ではなく

  両者を同じ価格で出しているのが独自でグッドポイント。

  他のメーカは管の厚さやボアの設計でかなり価格を変えることが多いが、

  原価に連動した価格設定とは思えないものも多い。

 

  キー装備はシンプルで、特注もそこまでいろいろはできない。

  音程面は安定しているように感じる一方、響きはやや窮屈に感じる面もある。

  演奏者の吹き込みに応える懐の深さや音色の味わいがもう少し欲しい。

 

  設計がしっかりしているのか、楽器ごとの個体差は少ない。

  調整の際にはデメリットとの声もあるが、キーのつくりがどこよりしっかり

  しており素晴らしいし、加工も美しく日本のものづくりが感じられる。

  パーツ供給もしっかりしており、部品の入手も簡単・安価であるメリットは

  大きい。

 

 ・ピュヒナー

  ひと昔前のものは特有のカン高い響きがしており、

  現在の低価格機種は同感。

  現在の高価格機種は別の楽器のようにまろやかな音が出る。

  過剰なキー装備は削る選択肢がほしい。頼めば出来るのかもしれないが。

  ヘッケルが高すぎるのと納期がかかりすぎるため、ヨーロッパでは

  選択する人が増えてきている印象。

  それでも日本の楽器店で買えばヘッケルに迫る値段。