詩: 清算機


自動清算機の列が

日替わり弁当の

ブロッコリーみたいに

端からくたびれていく


前の人の背中が

わたしの買い物かごに

ちょっとだけ当たって

「すみません」の声に

周りが睨んでくる


その気配を

レジ横のガムが

ぺたんと受け止めて

「牽制、始まったで」と

ミントの顔でつぶやく


後ろのスニーカーは

つま先で床を叩くたび

床だけが返事をしていた


透明ビニール袋は

イライラした指に

「アレー」と叫んで回る


氷ストッカーの氷たちは

ガバガバと連れ去られながら

冷たい悲鳴をあげていた


清算機は青い顔のまま

「次の方どうぞ」だけを

何度も飲み込んでいた



詩: 窓を開けて


歩き続けると


痛みは

足から離れ


風景だけが

身体に残る


言葉は

もう要らなかった


微笑みは


疲れ果てた胸を


静かに

通り過ぎる


窓を

開けてください


今日の空は


飛べる者にも

飛べない者にも


同じ高さで

ひらいています




空想詩: ゲーテとベッティーナの物語

時は過ぎ、未来に転生したふたり。

そこから物語ははじまります。


未来に転生したふたりは、

年齢だけはそのまま持ち越していた。


22歳のベッティーナは、

相変わらず光の速さで恋に走り、

58歳のゲーテは、

静けさの深さで世界を見つめていた。


「愛があれば歳の差なんて」と、

ふたりは一度はむすばれた。

未来の街のネオンの下で、

手をつないだ瞬間もあった。


だがしかし。


ある日、ベッティーナは突然言った。


「ねえゲーテ、なんか……おじさん臭い」


その言葉は、

未来の空気よりも冷たく、

ゲーテの胸に静かに沈んだ。


ベッティーナはそのまま、

新しい彼氏を見つけて、

あっけらかんと幸せになった。


めでたしめでたし。


🌹

――ん?


ゲーテは残された。


未来の海辺で、

ただ波を見つめてぼーっとしていた。

夕暮れの光が、

彼の沈黙を長く伸ばしていた。


そこへ、

なぜか浦島太郎が現れた。


「お疲れさん。これ、開けてみる?」

そう言って玉手箱を差し出した。


ゲーテは、

深く考えることもなく、

静かに蓋を開けた。


白い煙が立ちのぼり、

未来の海風に溶けていく。


ゲーテは少しだけ笑った。


白い煙は、

年齢さえ連れていったようだった。


煙が晴れたあと、

海だけが静かに残った。


終わり。



残されたゲーテが

かつての時代を思って詠んだ詩


海は広いな大きいな。

君が去ったあとも、

波は同じ速度で寄せては返し、

私の影をひそやかに伸ばしていく。


転生したこの未来の世界であろうと、

若さは風のように過ぎ去り、

私の手の中には

もう何も残っていない。


それでも私は見るだろう。

君の光が遠くで揺れているのを。


愛は、触れた瞬間に壊れるものではなく、

触れないことで形を保つこともある。


私は触れなかった。

それが私の愛だった。


🌹


追記 ここだけの話し、

玉手箱を開けたゲーテは若返っていた。