静かな山奥にある小さな村に、リュウという頑固な老人が住んでいた。リュウは村の鍛冶屋で、強靭な体力と職人気質で知られていた。彼は自分の仕事に誇りを持ち、決して妥協しない姿勢で村人たちから信頼されていたが、その頑固さは時に困難をもたらすことがあった。

ある日、村の中央広場に大きな石が運ばれてきた。村長の指示で広場の装飾として置かれたが、その石は大きすぎて道を塞いでしまっていた。村人たちはこの石を移動させようと試みたが、びくともしなかった。

「この石、どうやって動かそうか?」村人の一人が呟いた。

「リュウさんなら何とかしてくれるかも。」別の村人が提案した。

村長もその意見に同意し、リュウに頼むことにした。リュウは村長の話を聞き終わると、ゆっくりと立ち上がり、「わかった、俺に任せろ。」と自信満々に答えた。

リュウは大きなハンマーを手に取り、広場に向かった。村人たちはその様子を興味深く見守っていた。リュウは石の前に立ち、その巨大なハンマーで石を叩き始めた。しかし、どれだけ力を込めても石は微動だにしなかった。

「こいつは本当に頑丈だな…」リュウは額の汗を拭いながら呟いた。

村人たちは次第に不安になり、「リュウさんでも無理かもしれない」と囁き始めた。しかし、リュウはその頑固さで知られている。彼は「梃子でも動かない」と言われるほど、自分が決めたことには徹底的に取り組む性格だった。

「俺が動かせないものなどない!」リュウは叫び、再びハンマーを振り上げた。しかし、何度挑戦しても石は動かない。ついにリュウも疲れ果て、息を切らして座り込んだ。

その時、村の若者であるケイが近づいてきた。「リュウさん、そんなに力任せじゃなくて、ちょっと工夫してみましょう。」

リュウは眉をひそめたが、ケイの提案に耳を傾けた。「工夫だって?どうするんだ?」

ケイは笑顔で答えた。「てこの原理を使いましょう。大きな棒と支点を使えば、少しの力で大きなものを動かせるんです。」

リュウはその言葉に興味を持ち、ケイの指示に従って大きな棒と支点を用意した。ケイは棒を支点にかけて石の下に差し込み、リュウと共にその棒を押し上げた。

驚くべきことに、石は少しずつ動き始めた。村人たちはその光景に驚きの声を上げた。「本当に動いた!」

リュウは信じられない思いでケイを見つめ、「お前の言った通りだ。力だけじゃなく、知恵も大事なんだな。」と感謝の言葉を述べた。

ケイは微笑みながら、「そうです、リュウさん。力だけでなく、時には工夫と知恵を使うことも大切です。」と答えた。

こうして、リュウは自分の頑固さに加えて、柔軟な考え方を取り入れることの重要性を学んだ。村人たちもまた、協力と知恵の力を再認識し、村全体が一層強く結束することができた。

それ以来、リュウは自分の頑固さを誇りにしつつも、時には若者たちの意見に耳を傾けるようになった。そして、村はますます繁栄し、リュウとケイの友情も深まっていったのだった。

ことわざから小説を執筆
#田記正規 #読み方