港町の片隅にある小さな探偵事務所で、ユウジは毎日忙しく働いていた。彼は地元では評判の探偵で、複雑な事件も巧みに解決してきた。しかし、最近の失踪事件は彼を悩ませていた。

失踪したのは町の有力者の娘、ナオミだった。彼女は突然姿を消し、どんな手がかりも見つからなかった。ユウジは町中を調査し、証言を集め、あらゆる手段を尽くしても、ナオミの行方は掴めなかった。

「どこかに手がかりがあるはずだ…」ユウジは地図を広げ、ナオミが最後に目撃された場所から半径を描いてみた。しかし、何度やっても新しい情報は得られない。

ある日、ユウジはナオミの父親であるヤマダ氏の家を訪れた。彼は落ち着いた様子でユウジを迎え入れたが、その瞳には深い悲しみが宿っていた。

「ユウジさん、娘を見つけてくれ。どんなに小さな手がかりでも構わない。何でも教えてくれ。」ヤマダ氏は切実に訴えた。

ユウジはヤマダ氏の家をくまなく調査し、ナオミの部屋にも入った。部屋は綺麗に整えられており、特に変わったところは見当たらなかった。しかし、机の上に置かれた一冊の日記がユウジの目に留まった。

日記を開くと、ナオミの日常や悩みが綴られていた。最後の数ページには、何かに怯えた様子が見て取れた。特に「灯台」という言葉が何度か出てきていた。

「灯台…?」ユウジは呟いた。「灯台下暗し」とは、身近な場所にこそ重要な手がかりがあるという意味だ。ユウジはこの言葉の意味を噛み締め、灯台を調査する決意を固めた。

港の灯台は町の象徴であり、長年にわたり海の安全を守ってきた場所だった。ユウジは灯台の管理人であるオオタニさんに話を聞きに行った。

「オオタニさん、この灯台の近くで最近何か変わったことはありませんか?」ユウジは尋ねた。

オオタニさんは首を振り、「特に何もないですよ。この灯台は昔から変わらない場所ですから」と答えた。

ユウジは灯台の内部を調べることにした。階段を上りながら、彼はナオミの日記の記述を思い返していた。灯台の上にたどり着くと、そこには美しい海が広がっていた。しかし、目立った手がかりは見当たらなかった。

ユウジは一度ため息をつき、もう一度下に戻ることにした。その時、灯台の基部に小さな扉があることに気づいた。彼はその扉を開け、中を覗いた。

そこには、驚くべきことに、ナオミが座っていた。彼女は疲れ切った表情をしていたが、無事だった。ユウジは急いで彼女を助け出し、家に戻る準備をした。

ナオミは涙を流しながら、「ごめんなさい、ユウジさん…。誰にも見つからない場所を探して、ここに隠れていたの」と説明した。彼女は家庭の問題から逃れるため、身を隠していたのだ。

ユウジは安堵しながら、「灯台下暗しだな。身近な場所にこそ手がかりがあるとはこのことだ」と呟いた。

ナオミが無事に戻り、ヤマダ氏は深い感謝の意をユウジに伝えた。ユウジはその夜、灯台の光を見つめながら、これからも身近な真実を見逃さない探偵であり続けることを誓った。


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