町の片隅にある古いアパートに、ユウコは一人で住んでいました。彼女は大学卒業後、この町に移り住み、地元の出版社で働いていました。家族は遠く離れた故郷に住んでおり、仕事の忙しさもあり、なかなか会うことができませんでした。そんな彼女を支えてくれるのは、アパートの隣に住むナオミでした。

ナオミはユウコよりも年上で、夫と二人で暮らしていました。ユウコが引っ越してきた当初から、ナオミは親切にしてくれました。何か困ったことがあればいつでも声をかけてと言ってくれ、実際に何度も助けてくれました。

ある冬の日、ユウコはひどい風邪を引いてしまい、高熱で動けなくなってしまいました。寒気と頭痛に悩まされ、食事も取れず、ただベッドに横たわるしかありませんでした。遠くの家族に電話をしても、すぐに来てもらえる距離ではありません。ユウコは孤独と不安に苛まれていました。

その時、ナオミがユウコの部屋を訪れました。「大丈夫?何か手伝うことがあれば言ってね」と、ナオミは心配そうに声をかけてくれました。ユウコは涙ぐみながら、「すみません、本当に辛くて…」と、助けを求めました。

ナオミはすぐに行動に移しました。温かいお粥を作り、ユウコの部屋を掃除し、必要な薬を買ってきてくれました。ナオミの優しさと気配りに、ユウコは心から感謝しました。ナオミはその日も翌日もユウコの様子を見に来てくれ、彼女が回復するまで親身に世話をしてくれました。

ユウコが元気を取り戻した頃、ナオミと彼女の夫を夕食に招待しました。感謝の気持ちを込めて、自分で作った料理を振る舞いました。「本当にありがとうございました。ナオミさんがいなかったら、どうなっていたか分かりません」とユウコは心から感謝の言葉を述べました。

ナオミは微笑みながら言いました。「そんなことないわよ。困ったときはお互い様だから。遠くの親類より近くの他人って言うでしょ?私もユウコちゃんに助けてもらったことがたくさんあるし、これからもお互いに支え合っていこうね。」

その言葉にユウコは深く頷きました。遠くにいる家族も大切ですが、日常生活の中で困った時にすぐに手を差し伸べてくれる存在がどれほどありがたいかを実感しました。

ユウコとナオミはその後もお互いに助け合いながら、良き隣人としての絆を深めていきました。彼らの友情は、家族とは違う形の絆でありながら、非常に強いものでした。ユウコはナオミを通じて「遠くの親類より近くの他人」ということわざの意味を深く理解し、その教えを心に刻んで生きていきました。


ことわざから小説を執筆
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