昔々、ある深い森の中に、さまざまな動物たちが平和に暮らしていました。その中でも、狐のケンジは特に狡猾で賢いことで知られていました。ケンジは自分の知恵を使って、他の動物たちをうまく操り、いつも有利な立場に立っていました。

ある日、ケンジは森の中で巨大な虎、リュウに出会いました。リュウは森の王として君臨しており、他の動物たちから恐れられていました。ケンジはリュウの力を利用して、自分の地位をさらに強固にしようと考えました。

ケンジはリュウに近づき、媚びへつらいながら言いました。「リュウ様、あなたの威厳と力には常々感服しております。私にできることがあれば、何でもお手伝いさせていただきたい。」

リュウはケンジの言葉に耳を傾け、彼の巧妙な話術に少し興味を持ちました。「よかろう、お前の知恵を貸してくれ。ただし、裏切りは許さない。」

ケンジは喜び、リュウのそばで生活するようになりました。リュウの存在を盾に、ケンジは他の動物たちに対してますます傲慢な態度を取り始めました。彼はリュウの名を借りて、他の動物たちに命令し、自分の利益を追求しました。

ある日、森の動物たちはケンジの態度に耐えかねて、リュウの元に訴えに行きました。「リュウ様、ケンジはあなたの名を利用して私たちを苦しめています。どうかお裁きをお願いいたします。」

リュウはこの訴えに驚きましたが、ケンジの狡猾さを見抜いていました。リュウはケンジを呼び出し、厳しい目で問い詰めました。「ケンジ、お前は私の名を使って他の動物たちを苦しめているのか?」

ケンジは必死に言い逃れようとしましたが、リュウの威圧感に圧倒され、真実を白状せざるを得ませんでした。リュウは怒りを抑えながらも、冷静に言いました。「お前の狡猾さには感服するが、私の名を利用して他者を苦しめることは許されない。」

リュウはケンジに対して厳しい罰を下しました。彼を森の外れに追放し、二度と戻ってこないように命じました。ケンジは自分の行いを深く反省し、静かに森を去りました。

ケンジが去った後、森の動物たちは再び平和な生活を取り戻しました。リュウは自らの力を正しく使い、森の秩序を守り続けました。動物たちはリュウの公正さを敬い、リュウもまた彼らの信頼に応えるために努力しました。

「虎の威を借る狐」ということわざは、森の動物たちの間で語り継がれ、誰かの力を借りて不正を行うことの愚かさを教える教訓となりました。ケンジの物語は、他者の力を利用することの危険性と、真の力とは何かを示すものとして、永遠に語り継がれることになりました。



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