すごいお医者さんが現れました。

 

新型コロナワクチン接種者はクリニックへの立ち入りができないそうです。

院長先生が書いたものと思われる告知によると、ワクチンを打った人の皮膚から shedding(字義:放出)が起き、ワクチン未接種の人に悪影響があるといけないので、当分の間はワクチン接種者は診察しません、立ち入りも禁止とのことです。

 

モリタツ眼科クリニック ホームページの告知から

 

これにより、日本の人口の半分が立ち入り禁止になりますが、一方では日本中の shedding を恐れていたワクチン未接種者を迎え入れることができます。

 

それにしても、どんな根拠でこのような奇抜な思想が生まれたのでしょうか?

 

クリニックのサイト(9月13日)を見ると、まず第一に SNSで出回っている「ファイザー社からの警告文」なるものを信じているからのようです、その主張を見てみましょう。

 

主張1.ファイザー公式文書によると接種者の呼気や皮膚から抗原が放出されている

 

ファイザー製薬公式文書(PF-07302048(BNT162RNA-Based COVID-19Vaccines)Protocol C4591001)内に、要約すると、「接種者からの呼気や皮膚接触により未接触者へ抗原が暴露された場合は報告するように。」と記載されています。

 

 

答え:間違い

 

この手のデマは海外でも一時期流れていて、多くのニュースメディアで誤読によるデマと否定されています。そしてワクチンによる shedding という主張そのものも間違っていることが証明されています。(英文1英文2英文3

 

日本語の記事では以下の中で取り上げられており、英文で書かれた文書の誤訳から発生したデマについての言及があります。

 

 

ここでどのような誤読がされているか見てみます。

 

ファイザーの英語の文章には、ワクチン接種者の「妊娠」について書かれた後に、接種者自身ではなく、医療従事者を含む第三者の「環境的(薬剤の)暴露[environmental exposure]」について書かれている部分があります。そこを誤読して、ワクチン接種者の皮膚接触[skin contact]が危険であるかのように解釈して発生したデマが今回のデマということです。

 

モリタツ眼科クリニックは接種者からの呼気や皮膚接触により未接触者へ抗原が暴露された場合は報告するように」とファイザーの文書に記載があると主張しています。しかしファイザーの文面は全くそれとは異なり、「(妊娠直前に)医療提供者や関係する家族が治験薬の吸入や皮膚接触によって(治験薬への)暴露があった場合」と書かれています。

 

英文:Below are examples of environmental exposure during pregnancy:
• A female family member or healthcare provider reports that she is pregnant after
having been exposed to the study intervention by inhalation or skin contact.

 

AP通信の英文記事では以下のように説明しています。

ドキュメントの"お決まりの"表現は"偶発的事故も含めてあらゆる可能性の暴露"も包含することを意図している。皮膚の接触による"暴露"は例えば薬剤を充満した注射器が破損した際に近くにいる妊婦の薬剤暴露が起きるような場合もである。


また同じ記事では、治験プロトコル文書は多くの個所で、他の薬剤でも適用されるような共通の言い回しが使われており、例えば生のウイルスを含んでいるタイプのワクチンの場合も当てはまるような表現になるとも指摘されています。

 

こうして接種者からの呼気や皮膚接触」とは全く無関係な文面をとりあげて、”ファイザーはワクチン接種者の呼気や皮膚からの shedding を認知しているのに人々に知らせていない”というデマが作り上げられたわけです。

 

2.平成29年度厚労行政推進調査事業はワクチンの shedding を認めている

 

答え:間違い

 

この文書は遺伝子組み換え技術を使った「生ワクチン」あるいは「 不活化ワクチン 」を念頭に置いています。生ワクチンはウイルスそのものを使って生成されているのでウイルスの増殖に注意する必要があります。それに対して mRNAワクチンはウイルスそのものではありません。そしてウイルスやスパイクタンパクがウイルスに感染したかのように、気道で増殖されて出てくることもありません。ましては「皮膚」から飛び出してきません。

 

3.上記1と2の理由でモリタツ眼科クリニックは今回の対応に至った

 

以下がモリタツ眼科クリニックの主張です。

①、②からファイザー社等に代表されるワクチン群は、治験中でもあり、接種されていない方に接種された方がどのような影響(shedding)が出るのか未だ不明だと言う事です。つまり、あらゆる面からの検証が必要でその結果の評価がまだなされていない、とういう事です。 

 

答え:間違いと間違いを二つあわせても正解にはなりません。

 

先生は気持ちは誠実なのかもしれません。それでも間違いは間違いです。以下の主張は院長先生の緊迫感を感じさせます。

 

 最近は正常性バイアス(≒自分は大丈夫と思い込む、脳の危険なメカニズム)の度を遥かに逸脱し、事態は急を要していると考えています。

 

医師たちの中にも「度を遥かに逸脱した」バイアスが見受けられます。しかしデマに惑わされて陰謀論に傾く医者は全体と比較すると極めて少数です。

 

わたしたちは奇抜な内容で「どこどこの医者が言っている」とか「どこどこの名誉教授が言っている」という話を聞くときに、その主張に対してはるかに大多数の「医師」や「名誉教授」が異なる意見を持っているということを念頭に置くべきです。

 

 

 

終わり