そう、私はもう龍神の神子じゃないただの女だった。

 

だって今宵、「お床入りの儀」で私の初めてを長政さんに捧げるんだから。

 

大人の彼に恋してしまって、早く大人になりたいと願ったこともあったけど、いつまでも子供ではいられない寂しさも相まってほんの少しマリッジブルーな気分だった。でも同時に彼と結ばれる日を待ちわびていた。

 

少しだけ大人っぽくなった私を長政さんはどう思うかな。

 

長政さんには散々「7つの童女」だって揶揄われたのがちょっと懐かしい。前の私を知る宗矩さんや家康殿には見た目が変わったって言われるけど、自分じゃわからないんだけどね、長政さんが喜んでくれるといいな。

 

龍神の神子としての私を信じてくれて一目置いてくれた長政さんだったけど、仲が深まるにつれ時々顔を出す私の子供っぽさだったり我がままを苦笑しながらも許してくれた時は嬉しかった。彼もたいがい私には甘い。甘いものは苦手なくせにね・・

 

最初こそ厳しい彼に叱責されるたびに、自分の甘さが情けなかったし、彼には早く認めて欲しくて子供扱いされることがたまらなく悔しかったのに。

 

今目の前で私を見返す長政さんの目は輝き、かすかに頬も赤いみたいだ。

 

彼がこんな表情を見せるなんて出会った当初は考えもしなかった。

 

家の為に身を賭す覚悟で生きて来た長政さんにとって恋は絵空事でしかないものだったから。もしかすると辛い想いをしたことがあったのかもしれない。

 

そんな頑なだった長政さんの心がいつしか私に向けられることになるなんて・・

 

諦めずに困難に打ち勝つことができたのは、うちの神社の御利益のある縁結びのお守りを再会を信じてお互いに肌身離さず身に着けていたからかもしれない。