宴もたけなわだったが退席した後、やっと二人きりになれた。

 

まだ宴の賑わいは聞こえるけれど、新郎新婦の「お床入りの儀」を執り行う別室に用意されたお床を前に今更ながら緊張してしまう。

 

彼に勧められて少しだけお酒をいただいたけど、真新しい布団を目にした途端酔いが醒めてしまったみたい。

 

私の緊張を悟ったのか、長政さんはいつも以上にことさら穏やかに振舞ってくれた。

 

肩を優しく抱き寄せた長政さんに顎をくいっと持ち上げられた。

私の覚悟を問うように覗き込んでくる長政さんの顔を見れそうもないほど動揺してしまう。

 

「七緒、今宵お前を我が妻とする・・・覚悟はいいか?」

 

神子だった私をただの女にした長政さんの問いかけに、期待と不安と羞恥が入り混じった感情がこみ上げてきてしまいすがるように見つめ返す。

 

間近で長政さんの瞳を覗き込んだ時彼の心情が見て取れた。

 

泰然としてたかに見えた彼の中にもまだ葛藤があったみたい。

 

神子として龍神の化身だった私を妻に娶るのには豪胆な長政さんであっても相応の覚悟がいったのかもしれないと今更ながら気づく。

 

だからこそ最後に今一度だけ私の覚悟を問うたのだ。

 

「はい・・・私を長政さんの妻にしてください・・」

 

だって私だって長政さんが欲しいもの・・

 

貴方とともに生きるために元の生活の全てを失ってしまっても構わなかった。

 

私だって覚悟を決めたんだから貴方も覚悟を決めて!

 

私の返答を聞いた瞬間、不敵な笑みを返してくれた長政さんに唇を奪われる。思わずとっさに目を閉じて身構えた私の唇に触れたのは想像以上に優しい甘美なキスだった。

 

「良い返事だ・・・七緒、お前はただ一人俺が愛した女だ。」

 

逞しい腕に抱きしめられその温もりにほだされてしまう。

 

「お前が龍神の神子ではなく俺の妻になったのと同様に俺もまた八葉でこそなくなったが、これからは夫として生涯お前と共にあると誓う、それを忘れるなよ七緒」

 

――はい、長政さん

 

愛の誓いを交わした私は愛しい長政さんと初めての夜を過ごしたのだった。