「レイラ・・どうした泣いているのか?」

 

ライザール様の気配に私は涙を拭い彼を見つめる。

 

彼のためにこの場所に残り、彼の傍に幸せな居場所を見つけられたことが嬉しかった。

 

ライザール様のことを見送ったりなんてできそうになかった。

 

歳の差があるからいつかは離別の時がきてしまうけれど

少しでも長く彼と一緒にいたいから。

 

無言で抱きつく私をライザール様は優しく抱きしめてくれた。

彼の傍にはカルゥーとその家族がゆったりと寛いでいる。

 

恐る恐る覗く私にライザール様が機嫌よく彼らを紹介してくれた。

 

「レイラ・・コイツがカルゥーでその嫁と子らだ・・名前はまだだが一緒に考えてくれないか?」

 

「ガルニャン♪」

 

心配は杞憂に終わったようだ。

 

先に家族だったのはカルゥーだったけれど私はそんな彼に気に入られたみたい。

 

「ええ・・喜んで!でもそうですね・・私もライラ・ヌールみたいなセンスがあればよいのですけれど」

 

先ほど聞いたジェミルの話をふと思い出しながらそう言うとライザール様の眉がピクリと動いた。

 

「お前どうしてそれを?・・そうか・・・ではさっきの小僧があの時の・・・確かに面影があるな。

 

立派になったもんだ。なるほどな。世間は狭いというヤツか・・・ふっ」

 

ぶつぶつと一人ごちた後、ライザール様はふと思い出したように言われた。

 

 

「それにしてもライラ・ヌールねえ。ふむ・・そういえばお前はヤツに理解があるのだったな」

 

以前交わしたやりとりを覚えてくださっていたようだ。

 

「ええ・・彼はある種のヒーローですものね」

 

しかし言った途端ライザール様は苦しそうに眉をしかめた。

 

「所詮ヤツもただの人間だ、取り返しのつかない失敗だってするだろうさ。あんまり偶像視しないほうがいい」

 

 

なぜ急にそんなことをおっしゃるのかしら?苦虫をかみつぶしたような顔をなさるなんて・・

 

でもだからといって大切なヒーローを悪く言われるのは嫌だったから

 

「人ならば確かに失敗することもあるでしょうが、彼によって希望を与えられた人だっているはずです。

 

だからやはり彼はヒーローと呼ばれるのですもの」

 

私の脳裏に希望を抱き去って行ったジェミルの笑顔が浮かんだ。

 

間違いなく彼はライラ・ヌールに救われたその一人だった。

 

この街には幼い頃のジェミルのような境遇の子供たちは大勢いた。

 

埋もれてしまう一人一人に手を差し伸べるのは確かに難しいことだけど、だからといって彼はけっして諦めることはなかった。