ヒロカと私はロサンゼルス空港(LAX)で最後の時間を過ごしている。

 

ヒロカがロサンゼルスを最後にする日だ。

 

 

言葉数も少なく、彼女は私を見つめている時間が多かったように思う。

 

 

最終の搭乗アナウンスが流れた。

 

 

私達はセキュリティー・ゲートへ向かって歩き始めた。

 

 

二度と会うことの無い境界線まであと数メートル・・・

 

 

ヒロカが私を引き寄せキスをしてきた。

 

 

6年間付き合って彼女からキスをしてきた事など1度も無かった。

 

 

 

 

私の頭の中ではシューベルトの「セレナーデ」が流れている。
何故か別れの時はこの曲が頭の中に思い浮かぶ。

 

 

 

 

彼女の最後の言葉は「迎えにこれたら来て」

 

 

私は返事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

この空港でのシーン・・・どこかで見たことがある。
TVドラマの「ニューヨーク恋物語」

 

 

 

 

 

 

田村正和と岸本加代子が空港で別れを告げる・・・

 

 

そんなシーンだった。

 

 

TVでは田村正和が♪アマ・ポーラ~・・・・・と歌いながらバラの花をスーツの内ポケットから取り出し岸本加代子に渡していたような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

セキュリティー・チェックを受け搭乗口に向かう彼女を見送りながら「ゴメン、幸せになれよ!」と心の中で叫んだような記憶がある。

 

 

 

 

 

 

 

目頭を熱くしながらLAXの建物を出て、サングラスを掛け駐車場へ向かった時はカリフォルニアの青い空と同じ様に気分が晴れわたって清々しかった。

 

 

背中に背負っていた重い物が取り払われたかの様に見も心も軽い。この空港での涙が1つの思い出を洗い流してくれたような気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

あの電話以来カスミとは全く会っていない。

 

 

 

 

 

 

 

ヒロカが今日、日本へ帰国したことも知らないだろう。

 

 

もしかしたらカスミも帰国の準備をしているかもしれない、いや既に帰国してしまっているかもしれない・・・・

 

 

こうして1988年の夏は幕を閉じた・・・・・