親の口から申すのも変でございますけれど、わたくしが訊ねますことだけには、それでも、不精無精返答を致しますんですの。尤も、おほかたは出鱈目[#「出鱈目」に傍点]らしうございますけれどね。追々お躾けを願ふことに致しまして、今日のところは、どんなに仰つしやつていただきましても、結局無駄だらうと思ひますんですが、如何なもんでございませう。先日も申し上げました通り、日頃これには、何一つ、不自由な目を見せたことはございませんのです。宅では決して贅沢な暮しを致してをりますわけぢやございませんけれど、子供だけには欲しいものを与へるやうにいたしてをりました。あんな大それたことをする仲間には、はひつてをりましたが、自分の懐へは一銭もいれなかつたらうと思ふんでございますよ。その代り、根性が曲つてゐるといふ点では、(麦太郎の方を見て)一寸類がございますまい。それと、たちのよくない悪戯を、平気で致しますこと、これはまた、先生、考へても恐ろしくなるほどでございます。
院長 それといふのが、何時かも申したやうに、自分で何がしたいのか知らずにをられるんです。決して好きでやつてをられるんぢやないです。
海老子 ほんとにさうでございませうね。ですから、どんな悪戯をしましても、(繭子の方をちらと見て)顔を見るとつい憎めなくなるんでございますよ。人がよろしいと申しますか、姉なんかと喧嘩をいたしましても、何処か手加減をするといふところが見えましてね、口でいふほど乱暴はいたしませんの。それはまた、この繭子と申します娘が、いたつて弟思ひでございまして、自分がひどい目に遭はされてゐながら、相手をかばふつていふ風でございますからね。
