最近、乳児期腸内細菌異常とその後の行動異常の発症との関係を示唆する論文がLancetという有名医学雑誌に掲載されました。

 概略は、
①生後12カ月で腸内細菌のPrevotellaの減少が 
 2歳時の行動異常と関係する

②Prevotellaの減少には抗生物質の使用が関係
 している です。


腸内の細菌がなぜ脳の機能に影響を与えるのか、不思議に思われる方も多いと思います。

私たちの脳は神経細胞が複雑なネットワークを形成し、記憶、感情、思考、その他の複雑な精神活動を行なっています。神経細胞と神経細胞の間は、回路が直接つながっているわけではなくシナプス間隙という空間で隔てられ、その間隙を神経伝達物質という物質が拡散することで情報を伝えています。この神経伝達物質には、皆さんよく耳にする、セロトニン、ドーパミン、ギャバ、グリシンなどがあり、それぞれ、幸せのセロトニン、やる気が出るドーパミン、リラックスのギャバ、安眠のグリシン等、その機能によって呼ばれることもしばしばです。
これらの神経伝達物質の過不足が、精神疾患とも密接に関係しており、うつ病にとても良く効く薬はS SR I(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれ、セロトニンを増加させる薬ですし、統合失調症という病気は、ドーパミンが多すぎることで起こり、アルツハイマー認知症の薬は、アセチルコリンを増加させる薬です。このように、私たちの精神機能は神経伝達物質の量によって左右されています。

これらの神経伝達物質の元になるのはアミノ酸で、セロトニンはトリプトファンから、ドーパミンはチロシンから、グリシンとギャバはアミノ酸そのものです。これらのアミノ酸は、食物から摂取されたタンパク質が腸内で分解されて産生されます。そして、セロトニンやドーパミンを産生する酵素を腸内細菌が多く持っていれば、多くのセロトニンやドーパミンが産生されることになり、幸せな気分を感じつつ、やる気に満ちた生活を送ることができると考えられます。

 

 腸内で産生された物質がどのようにして脳内に入っていくのかについては、まだ不明の点が多いのですが、ドーパミンの不足が原因であるパーキンソン病では、ドーパミン前駆物質のL-ドーパを飲むことで脳内のドーパミン量を増やすことができますし、肝硬変患者さんでは、腸内で産生された毒性の強いアンモニアが脳内に入って意識障害が起こります。これらのことは、腸内で産生された物質は比較的容易に脳内に入り込むことができ、精神機能に影響を及ぼすことができることを示しています。

 腸内細菌を乱す原因としては、人工甘味料、頻回の肉食、食物繊維の摂取減少、運動量の減少等があります。またこの論文で示されているように、抗生物質は直接腸内細菌を乱し、精神機能に悪影響を及ぼします。不要な抗生物質を飲まないことや、小さい頃の正しい食育は子供の心身を健やかに育てることにとても重要であると考えられるようになってきています。