私たちは、昔の人に比べて、食べ物を噛まなくなったと言われています。その理由の一つは、加工技術の発達により、簡単に食品を軟らかくすることができるようになったからです。離乳期の赤ん坊や高齢者の世話をする方々にとっては、便利になって喜ばしい進化ではないでしょうか。一方、駅で電車を待つ間に急いでそばをかき込む人や、ほおばったハンバーガーを飲み物で流し込む人をよく目にします。急いでいるからなのでしょうが、これを習慣にしてしまうのはどうかと思います。折角の食事なのですから、できればしっかり味わいたいものです。

 ところで、発育期に食べ物を良く噛まないと、脳の発達が遅れるという学説が発表されて話題を呼んだことがあります。それは、動物実験の結果から導きだされた考えのようです。発表した大学教授は、離乳期に入ったねずみ24匹を二つのグループに分け、一方には硬い餌を、もう一方には粉末の餌を与えました。成分はもちろん同じです。6週間ほど経過したあとに12種類の迷路テストを行い、間違った道に入り込むと減点する方法で知能の発達度を調査したそうです。その結果、硬い餌を食べていたグループが獲得したのは137点でした。それに対して、粉末を与えていたグループは26点という成績でした。さらに、学習効果を調べる「条件回避テスト」でも、硬い餌を食べたねずみのほうが約20パーセントも能力が高いことが証明されました。こうした結果が、すべて人間に当てはまるかどうかは分かりませんが、噛むという行為が脳に何らかの影響を及ぼすことは事実のようです。自分自身の生活に照らし合わせても、非常に興味深い学説だと考えさせられました。

 忙しく仕事に追われていると、食事は手軽に食べられるものが多くなり、それらは甘くて柔らかいものが多いので、気をつけなければならないと肝に銘じましょう。