『○○くーん、3時半から棚卸し教えるから掃除終わらせておいてねー』
そう店長が言う。時刻は3月11日、午後2時45分をさしていた。
いけない、急がないと掃除が終わらない。
お客の来店が一段落する午後2時以降はアイドルタイムと呼ばれる暇な時間帯。
各々が夜にむけて仕込みをしたり、掃除をしたり、商品の補充をする。
ぽつりと誰かが言った。なんか揺れてるね。言われてみれば確かにそうである。
震度5弱の地震に見舞われたばかりの我々は『また余震か、すぐおさまるだろう』そんな軽い気持ちでいた。
次の瞬間、経験したことのないすさまじい揺れに襲われた。
棚の上からあらゆるものが落ちてくる。
テンプラ油を交換していた私はとっさにスイッチをオフにした。
全員が裏口にむけて走る。揺れはおさまるどころか激しさを増すばかり。立っていられない。
全員が地面に伏せていた。信号機、看板、車、ビル。すべてが波打つような揺れだった。
恐ろしく長い三分間が終わり、揺れは収まった。しばらく駐車場に座り込んで、全員の無事を確認した。
ちょうど銀行から帰ってきたベテランアルバイトさんが、車の中で固まっていた。声をかけたら泣いてしまった。
裏口をあけると両端の棚が崩れ、足元には書類が散乱していた。
中は薄暗かった。停電したんだ、とすぐにわかった。
室内では大量の食材、食器、調理器具、すべてが床の上にぶちまけられ、天ぷら油で一面ベタベタになり、大型の業務用冷蔵庫が30cmほど前に出ていた。
どこから手をつけたらいいかわからない、とはこういうことだろう。
アルバイトさんたちには全員帰宅してもらった。
一時間ほどかかってとりあえず足元だけ片付けた。
ゴミ山から椅子を引っ張りだして一息ついた。
なにをしたらいいのかわからない。
家族との連絡はつかない。
途方にくれていた。
