今回はユキサーンさんに『ちこ発想のデジモン化がみたい』とリクエスト頂いたので書きました〜!



今日も、明日も、明後日も。

ずっとずっと変わらない、いつもの日常が続いていくのだと思っていた。

これからも代わり映えのない……だけど平和で穏やかな日常が続くんだって、そう、信じていた。


だけどーー


いつもの日常は唐突に終わりを告げた。





俺は檜山松左衛門(ひやままつざえもん)。

どこにでも居るような、ごく普通の平凡な男子高校生だ。

クラスの中心的人物でもなければ、街を歩けば10人中7、8人は振り返るようなイケメンでもないし……学校のマドンナと幼馴染とか、好意を寄せられているとか、そんなよくあるラノベ的な展開もない、面白味の全くない地味でつまらない人生を送って来た。

小説にして出版したら全部売れずに返却されて大赤字になるレベルで面白くない人生だろう。

一応、友人と呼べる間柄の人間は1人居るが……そいつも取り立てて目立つような奴でもイケメンや特別な存在でもない、俺と似たような奴だ。

以前そう言ったら「お前もだろうが!」って返しながらぶん殴られたから、俺も殴り返して、そのまま殴り合いの喧嘩に発展して、学校から連絡が行ったらしいお互いの母ちゃんに2人揃って拳骨を食らったっけ。


まあそんな風に唯一と呼べる友人としょうもないことで毎日馬鹿みたいに騒いでは母ちゃん達に叱られて、学校のテストでは赤点を取って先生に叱られて、体育をやればボールを顔面キャッチするような、どっちかというとヒエラルキーの底辺に居るような……でも家に帰れば優しくて暖かい家族が迎えてくれて、母ちゃんの美味い飯を腹一杯食って。

父ちゃんに思春期あるあるの反発してみたりとかしてガキの癖に生意気だって拳骨喰らって。家を出れば気の許せる、何でも本音をぶつけ合える友人が居て、休みの日でも学校でもどんなつまんないことでも一緒に笑い合って過ごせる……そんな、地味ながらも満たされていて、幸せな人生を送っていると思う。

そりゃあ俺だって男子高校生だし、ラノベの主人公みたいに冒険したり活躍してみたいとか……イケメンになって皆から注目されたい、学校のマドンナと親しくなって話してみたい、女子にモテたいとか想像してみたりして、非日常に憧れる気持ちはある。

きっと誰もが一度くらいは想像したことあるんじゃないか?

こんな自分になりたい、こういう体験してみたいってさ。

俺の考えてることも多分そういうことなんだよな。

ただの憧れ、想像であって実際に今ある平和で穏やかな生活を、いつもの日常を手放してまで、非日常を手に入れたいか……体験してみたいかっていうと違うんだよな。

今の生活で俺は満足してるんだ。

だって学校っていう社会のヒエラルキーの中では確かに底辺も良いとこかもしれないけどさ?

地味でクラスメイトからも居ても居なくてもどうでも良い奴扱いされてて、見向きもされないけど……大好きな家族がいつも側に居て、何があってもずっと一緒の友人が居るんだぜ、これ以上望むことなんてあるかよ。

イケメンになれても誰も味方が居なくなるとか、マドンナとか女子にモテても家族が側に居てくれなくなる、そんな展開は俺は望んでねぇんだよ。

俺は俺のまま、今のままで充分幸せなんだ。

だから、俺にはこれ以上欲しいものなんて、ないんだ。


なのにーーその当たり前の日常は、いつもの平和で穏やかな日々は、突然崩れ去っていった。







「なんだよ……!なんなんだよ、これ……!?」


ーー目の前で制服を赤く染めて倒れているのはクラスの中心人物的存在だったイケメンの男子生徒。

そして、『俺の左腕があった場所』には見覚えのない黄金に輝く甲冑に覆われた異形の腕が生えており、その腕の先からは銀色の爪が伸びていた。

銀色の爪の部分にはどろりとした赤い液体がべったりと付着していて、重力に従って滴り落ちて床に赤い斑点模様を描いている。


どうしてこんなことになったのかなんて俺にはわからない。

俺はただ、俺の腕を掴んだイケメン男子生徒を振り払った、それだけなのにーー何故か俺の掴まれていた方の腕は、左腕は俺の知らない間に姿形を大きく変えていて、異形と化した腕の先端から生えた鋭利な爪はイケメン男子生徒の身体を容易く斬り裂いていた。

イケメン男子生徒も、俺自身も、周りで見ていたクラスメイト達も。

誰一人、今この状況を正確に把握して、理解出来た奴なんて居ないだろう。

ましてやそれを他の奴に説明出来る奴なんて、居るはずがない。

イケメン男子生徒は一瞬何が起こったかわらないような、ぽかんとした表情を浮かべながらーー盛大に血を噴き出してその場に倒れ込み、そして2度と動かなくなった。

イケメン男子生徒が倒れて、その周辺に赤い血溜まりを生み出したところで俺と周囲の理解が追いついて、俺はその場に腰を抜かして座り込み、クラスメイト達からは悲鳴が上がった。

いつもは俺のことなんて見向きもしない癖に、会話どころか視線1つまともに寄越したことのないような、俺の名前も顔も覚えてないだろう奴らが、皆、俺を恐怖に満ちた表情で見つめていた。

化け物を見るような目つきだった。

奴らの視線を一身に受けた俺は生まれて初めて人を殺してしまったこと、望まない注目を受けたこと、そして何よりもーー自分の腕が全く違う生物のものへと変化したこと、今もはっきりと思い出せる、肉を切り裂いた生々しい感触にパニックになって、震えの止まらない身体を何とか起こし、周囲のざわめきには耳も貸さず、机や椅子にぶつかり蹴り倒しながら我武者羅になって教室の窓に駆け寄り、そのままの勢いで窓ガラスにぶつかって。

化け物、人殺しと叫ぶ声を背に受けながら、俺は今までの日常に別れを告げるように、窓ガラスを突き破り、外へと飛び出した。


目の前で崩れ去った穏やかで平和な日々は、もう2度と戻って来ない。







人の目を避けるように、走って、奔って、疾って。

化け物と呼ぶ声も、怯えた視線も、ざわめきも全て無視して走り続けて、人の居ない場所を目指して走っているうちに、気付けば俺はいつの間にか街を抜けて人気のない河辺の方へとやって来ていた。

ふと街の方を振り返れば、街の上空には軍のものと思われる、ヘリコプターが幾つも飛んでいて街全体に放送が流れているのが聞こえる。

その内容は街中の高校で危険な生物が突如出現して暴れ出したというもの。

危険だから一歩も家から出るな、もし危険生物を見つけた場合はすぐに連絡するように、と街中に設置されたスピーカーから繰り返し放送が流れ続けている。

……この放送にある危険な生物とは考えるまでもなく俺のことだろう。

何気なく覗き込んだ川には、走っている時は気が付かなかったが、変化は左腕だけに留まらず、俺の両足もまた同じような変貌を遂げている様子が映し出されていた。

足先が黄金に輝く甲冑に覆われ、先端には銀色の鋭利な爪が伸びている。

ああ、そうだ。

無我夢中だったとはいえ、運動音痴な俺が誰にも捕まらずにここまで逃げ切れたのがまずおかしいんだよな。

仮に運良く逃げられたとしても息切れ1つしてないってのはどう考えてもおかしい。

俺はどうやら、いよいよ本格的に化け物に近付いているらしい。

顔も少しずつヒトの面影がなくなっているような気がする。

いつか全身が化け物に変わり、ヒトだった記憶も、心も全て失くして本物の化け物になるのだろう。



ーー俺が、何をしたっていうんだ。

俺は何も望んでいなかった。

非日常を憧れ、夢見ることはあっても、本当に非日常を過ごしたいなんて心から願ったことはなかったじゃないか。

なのに、なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ。

俺はただ代わり映えはしないけど、穏やかで平穏な日常を過ごしていたかっただけだっていうのに。


……ああでも、これってよくあるラノベの主人公みたいだな。

この体験談を元に小説として書き起こせば、ヒットするかもしれない。ありきたり過ぎるし俺に文才なんてないから売れない可能性もあるけどさ。

それでも友人に話せば笑い話のネタくらいにはなるかもしれない。

また馬鹿みたいに盛り上がって、騒げるネタが1つ増えたな。

全部、今となっては最早叶わぬ願いだけれど。


このままヒトに戻れるかもわからない、そもそも生きて家族の元に帰れるかもわからないのだから。

そうだ、母ちゃんと父ちゃんはどうしてるかな……一人息子の俺がこんなんなっちまったって知ったらショック受けるかな。

今回の事件が広く知れ渡ったら、ご近所さんとか世間からは色々言われるかもしれない。

母ちゃんも父ちゃんも何も悪くないんだ、だから悪く言うのはやめてくれ。

悪いのは、多分俺だから。

こんな展開俺は望んじゃいなかったけど……なってしまった以上、悪いのはきっと俺なんだろう。

だから2人を責めないでくれ、母ちゃん達は何も悪くないからさ。

……無事を確かめに行きたいけど、こんな姿じゃ母ちゃん達にはもう、会えない。

会っても俺だってわかる保証はないし、最悪軍に突き出される可能性もある。

母ちゃん達にそんなことされたら俺、今度こそ心が壊れちまうんだろうな。

そしていつか本物の化け物になっちまうんだ。


友人、アイツも元気にしてるかな……昨日アイスいっぱい食って腹壊して寝込んでるって連絡来たけど

いやアイツなら多分明日にはけろっと回復して何でもないような顔して登校してくるんだろうな。

もうそこに俺は居ないけど。

でも、友人が今日休みで少しだけホッとしている俺がいる。

流石にアイツも俺が目の前で人殺してるのみたら今までのようにって訳にはいかねぇだろ?

母ちゃんと父ちゃんもそうだけど、小さい頃から兄弟みてぇに育って来たアイツにまで拒絶されたら、俺は……


「居たぞ!あそこだ!」


不意にライトが当てられて、思わず目を細めれば、遠くの空を飛んでいたヘリが近くまで来ていた。

武装した軍隊が駆け付けてくるのも見えた。

明らかに連中は俺を化け物だと、危険な生物だと認識した上でここに来ている。

俺は元々人間だと、化け物ではないと弁解しようにも俺の姿は既に半分くらいが化け物に変わってしまっている。

何より俺は人殺しの化け物だ。そんな危険な生き物を生かしておく訳にはいかないだろう。

もう、終わりだ。

痛いのは、嫌だからなるべく一瞬で終わらせて欲しいな。

駆け付けた軍人達に取り囲まれ、無数の武器を向けられる中でそう思いながら、俺は目を閉じてーー


目蓋を閉じ切る直前、視界が赤く染まった。

響き渡る爆音、揺れる大地、風に乗って運ばれてくる焦げた臭い……ぱちぱちと何かが燃える音に、ざわめく周囲。

少し状況は違うが、このざわめきは俺があのイケメン男子生徒を殺した時と同じだ、そのことに気付いて目を開けると、目の前の河原が燃えていた。


……は?」


軍隊の連中は動揺しながらも周囲を警戒していて、これをしたのはまた別の奴らだと言うことがわかる。

何が起こっているのか、茫然と立ち尽くす俺の元に聞こえてきたのは女の子の声だった。


「何をぼさっとしてるの!早く逃げなさい!あんた死にたいの!?」


そう叱り飛ばしながら強く左腕を……異形と化した腕を掴まれて引っ張られる。

咄嗟に振り払おうとして、イケメン男子生徒を殺した時のことが脳裏を過ぎって、動けなくなった。

また、あの時みたいに殺してしまったら……腕を掴んだ奴は固まる俺のことなんて気にも留めず、俺がいつまでも立ち尽くしたまま動かないとみると、苛立ちの声を上げて一旦手を離す。


「ああもう、世話の焼ける!」


「うぉっ!?」


そして俺の腰に手を回し、膝の裏に手を入れるとそのまま俺を抱えてーー所謂オヒメサマダッコって奴だーー未だ燃え上がる炎に背を向け、煙の中へと向かって駆け出した。

何が起こっているのか本当に分からなくて、ただ俺は抱えられたまま運ばれるしかなかった。

今にして振り返れば誘拐されてるようなものなんだからもっと抵抗すれば良かったんだろうが、下手に暴れるとイケメン男子生徒を殺した時のように殺してしまうかもしれない、運良く殺さなくても相手を傷付けてしまうことを考えるとやはり動けなかっただろう。




そのまま暫く運ばれていると、やがて人気のない裏路地に辿り着き、その中でも今は使われていない、近いうちに取り壊し予定の廃ビルへと着いた。

薄暗い建物の中に入ったところで、俺はぽいっと雑に床に降ろされ、背中を強く打ちつける羽目になったのだった。


「いってぇ!?ちょ、降ろすならもっと優しく降ろしてくんない!?……って、え?」


痛む身体を摩りながら俺は運んで来た奴に文句を言いつつ顔を上げ、固まった。

そこには目つきのキツい気の強そうな女の子が立っていた。

日本人らしからぬ銀髪を腰まで伸ばし、赤色のコートとロングブーツに身を包んだ彼女は不機嫌そうな顔つきのまま、腕を組みじろじろと俺のことを値踏みするように見つめて口を開く。


「なんだ、運んでる間ずっと静かだったから心配したけど、それだけ喋れるなら大丈夫そうね」


「え、女の子??きみが、俺のこと運んだの……?いやいや嘘だよね!?っていうかなんで俺のこと、助けてくれたの?あ、別に助けて欲しくなかった訳じゃなくて!てかお礼言ってなかったな助けてくれてありがとう!でも俺のこと助けてくれた理由も知りたいかな!?」


この時の俺は、生まれて初めて母ちゃんとか先生以外の女の子と一対一話すもんだから何話せば良いかわかんなくて、完全パニックになってたから言ってることめちゃくちゃだったし、煩かったと思う。

でも化け物になってから初めてまともに怖がらないで向き合ってくれる奴と出会ったから、嬉しかった気持ちも正直あったんだろうな。

だからついついたくさん喋りかけてしまったんだけど、女の子は「言いたいこと纏めてから喋ってくんない?」って呆れつつも1つ1つ順番に答えてくれた。


「なによ、あたしがあんたを運んだらおかしいわけ?女だからって舐めないでよね、あんたくらいならあたしでも運べるわよ。そしてあたしがあんたを助けた理由はーー」


そう言いながら女の子は入り口の、建物の外へと向かって歩いていく。

何となくそれを見送っていると、女の子はそのまま建物の外へと出て行き、そして。


女の子は光に包み込まれた。

って、いやいやいや待って!?おかしいだろ、なんで人間が光ってんの、え?おかしいの俺?!

そんな内心混乱する俺を置き去りに、やがて光は収まり、女の子が立っていた場所を見て俺は大きく目を見開き、ぽかんと口を開く。


「え?」


何故なら女の子が居た場所に立っていたのはーー


「ーーあたしが、あんたと同じだからよ」


「俺と、同じ……?!」


ーー頭から銀髪の生やし、俺よりずっと高い位置から俺を見下ろす真紅色の恐竜だったのだから。


「え、ええええぇぇえええええええっ!?」














・あとがき。


今回はユキサーンさんに『ちこ発想のデジモン化がみたい』とリクエスト頂いたので書きました!

色々ジャンル悩みましたが今回は王道の『平凡な日常が非日常に変わる』展開、ボーイ・ミーツ・ガールっぽい感じに仕上げました。

やっぱり王道は良いですよね。


ユキサーンさん、何か問題などありましたらご連絡下さい!




・登場人物。


檜山松左衛門(ひやままつざえもん)

この話の主人公。

特に目立った活躍も、飛び抜けた容姿も持たず、平凡で地味な人生を送って来た男の子。

非日常に憧れは抱いているが、優しくて暖かい家族が居て、気の許せる友人が居るので今の日常に満足している。

これからも平凡な人生を送っていくつもりだったが、ある日突然平穏な日常に永遠の別れを告げることになる。


名前は出てないけど進化したのはズバモン。

作者が松左衛門くんに人をぶすりして欲しかったのと、人型ではないデジモンにしたかったので選ばれました。



女の子

この話のヒロイン

松左衛門くんを助けた女の子。

目つきのキツさと日本人らしからぬ銀髪が特徴(この世界の日本人は黒と茶髪が一般的)

性格も気が強いというかちょっとキツめでツンツンしてる感じ。

仲良くなったら優しくなるかもしれない。


こちらも名前は出てないけど、進化したのはグラウモン。

松左衛門くんと違って完全なデジモンの姿になることが出来て、またヒトの姿にもなれるらしい。

髪の色は元は綺麗な黒い髪だったがグラウモンに進化する内にグラウモンの髪の色に変化してしまった。