最近、お客様のところへ行きお話をしていると、「ここ3年ほど菊の相場変動が激しすぎて購入し辛い。」と言った話を良く耳にします。実際、お盆やお彼岸などの需要期に高値、というよりも商品が無いとか、大きな需要期でもないのに葬儀用の菊が無い、などといった状況になる事が多い様に感じます。
そこで関連業者様の中でも特に菊の出荷状況や生産過程に詳しい方々にお話を伺い、現在日本の菊生産が置かれる状況についてまとめてみました。
現在、日本の菊生産は周年で行われていますが、大きく分けて夏菊と、秋菊に分類されます。夏菊とは「岩の白扇」「フローラル優花」「精の一世」などの品種、秋菊とは「神馬」「精興の誠」などの品種の事です。おおよそ6月ごろに秋菊品種から夏菊品種に切り替わり、10月ごろ夏菊品種から秋菊品種へと切り替わります。中には夏場の出荷のみの高冷地産地もありますが、今回は鉄骨ハウス(シェードできつい日差しを遮光できる設備)を使用し、周年出荷をしている産地の状況についてのお話です。
①日本の菊作りが置かれる環境
四季のある日本での菊生産は12ヶ月の中に「出荷しにくい時期」と「出荷しやすい時期」があり、それは下記の様になります。
「出荷しにくい時期=2・3・4月 9・10月ごろ」「出荷しやすい時期=6・7・8月 11・12月ごろ」「それ以外=1・5月ごろ」
菊の生育期間は90日~100日(約3ヶ月)です。冬場の寒い時期に作ろうと思えば、もちろんハウスなどの施設が必要で、暖房で加温し育成しなければなりません。となると2~4月出荷、つまり12~2月ごろ定植の一番寒い時期を乗り越えなければならない菊作りには、他の時期のそれよりもコストが掛かります。しかもここ10年で施設暖房に使われる重油の価格が40円台から80円台まで値上がりし、今年の冬に至っては90円台まで高騰しました。これは冬場の菊生産量が減少している大きな原因となっています。3月には春彼岸という大きい需要期があるので、菊相場高騰の可能性が高く、コストを掛けても作る価値を見出す事ができますが、2月と4月については、コスト割れの可能性が高い時期なので、作付けする生産者は減少する一方です。もちろん気象条件の影響もありますが、今年冬の品薄、高値の原因はこの部分が大きいと言われています。
秋は「菊の節句」がある様に季咲きですが、9~10月出荷については、6~7月ごろ定植となり、先ほどとは逆に一番暑い時期を乗り越えて出荷されるものとなります。近年、昔は存在しなかった外来種の病害虫が発生し、従来の農薬では駆除しきれない状況となっています、そこに来て日本では農薬の規制が厳しく、効果の大きい農薬は使えません。昔の夏菊作りに必要な農薬散布が週に1回だとすれば、現在は週に2~3回の散布が必要なので、コストが掛かり、さらに散布回数が多くなれば人体に良くないのも、この時期に出荷しにくいと言われる原因の一つです。天候不順により育成期間がばらつき「花ねじれ」や「白さび」などを引き起こして規格外品出荷となり、相場下落のリスクが高いのもこの時期の特徴です。
出荷しやすい時期については上記のリスクが少ない時期に育成できる事、大きい需要期が絡んでいるのでコスト割れのリスクが少ない事などが理由です。
今年6~7月の相場下落については、リスクを避けた生産者が多く作付けが集中した事、さらには過去3年間に7月の関東盆によって相場下落を避ける事ができていたので、このシーズンに出荷が集中している事にすら気付いていない生産者の出荷がさらに増えていた事が原因だと言われています。しかし4年前にも一度7月関東盆の時期に大暴落しています。
作りやすい時期に出荷すると安値になり、作りにくい時期には生産性とコストが合わない、などの理由から国内菊生産の衰退が懸念されています。
②中国産の脅威
ここ3年程で外国産菊(90%以上が中国産)の品質が向上し、日本向けの出荷形態が確立されつつあります。切花の輸入には国内出荷には無い検疫費やその他のコストが掛かりますが、関税は掛かりません。0%です。その他に人件費が格段に安い事、海外では農薬価格が安い事、日本では農薬の規制の厳しい効果の大きい農薬が使える事、といった利点があり、品質面ではまだまだ国産より劣る面が多いですが、安価で購入可能な為、数量の確保が重要となる量販店や納品業者などが直接買付け契約しています。そして葬儀・仏用の需要が停滞した時期に販売しきれないものを市場へ出荷すると、相場下落にさらに拍車をかけます。現在の円高の影響で、カーネーションやバラの様に、菊作りも輸入品頼りになる可能性もあります。もしそうなるとすれば、おそらく人件費の安く、すでに確立されつつある中国産だと予測されますが、中国の経済発展スピードや、現在の円高がいつまで続くかは予測不可能なので、輸入品に頼りすぎると、将来もし海外での生産コストが合わなくなった時、すでに日本の国内生産は大きく衰退し、再度国産の使用に戻ることができない状況になる可能性があります。
③生産性の良い品種と需要
近年、生産効率の良い2LやLばかり発生する品種の出現と、上位等級が増えれば坪単価(1坪あたりの収入)が上がるという生産側の考えから2L、L、M、Sの出荷バランスが需要から掛け離れています。大きい需要期に大量に必要なサイズはM~Sですが、年々下位等級の発生率は低くなっているので、近年の需要期には2LとSに価格差があまり無い状況です。
④経済不安
近年日本経済への不安からリスクを負う買付け業者(在庫を抱えて価格や流通量の調整をする)が減少しています。上記の事情をしる人が少なく、相場調整が利かない状況です。
以上、①に②③④が拍車を掛けた事が理由となり、近年の浮き沈みの激しい相場変動となっていると思われます。もちろんこれ以外にも原因となる事柄はあると思いますが、読んで頂ければ分かるとおり、近年のこの菊相場変動は起こるべくして起こったもので、原因が分かっている事です。
今回は輪菊についてのお話ですが、他品目についても似た状況が見られるものがありますので、普段菊を使われない方も、もちろん関係ない話ではありません。相場の不安定=生産の不安定=供給の不安定=需要の不安定となり衰退のスパイラルに陥ってしまう可能性があります。歯止めが利かなくなる前に、この事を良く理解して頂きたいと思います。
今回勉強不足ながらこの状況について簡単ですが報告させて頂いたのは、この状況に大きな不安を感じたからです。最後に解決策を付け加える事ができない事を申し訳なく思いますが、こう言った状況をよりたくさんの方に知って頂ければ良いと思います。
F.CON (株)大阪鶴見花き取引機構
山本 和義
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