この冬、ezuにモンゴル生まれの作品が加わります。カシミヤのストール、フェルトの靴や帽子。いま草原の工房でひとつずつ形になっていて、最初のサンプルが桐生のアトリエにも届きはじめました。

今日は、その作品の話ではなく、その手前にある話をさせてください。なぜezuは、わざわざモンゴルまで行ってつくるのか、という話です。

「安くつくるため」ではありません

海外でつくると聞くと、コストのためだと思われるかもしれません。答えは逆です。手間も費用も、日本でつくるよりかかっています。それでもモンゴルなのは、あの土地でしか生まれない素材があるからです。

モンゴルの冬は、マイナス40度まで下がります。その寒さを生き抜くために、山羊やヤクは身体の内側に、ごく細い産毛をたくわえます。カシミヤのあのやわらかさは、あの寒さと乾きが育てたもの。あたたかい土地では、どうやっても育ちません。

この毛は、増やせない

それなら動物を囲って何千頭も飼えば、たくさん採れるのではないか。そう思われるかもしれません。ところが、そうすると草原が痩せてしまうのです。

モンゴルの人たちは3000年前から、草を食べ尽くす前に次の草地へ移り、群れの数を暮らしに見合うだけに保ってきました。その加減ごと、素材の一部です。だからこの毛は、工場を建てれば増える、という種類のものではありません。

「たくさんつくれない」。ものづくりの世界では、それはふつう、弱点と呼ばれます。けれどezuは、そこにこそ立ちたいと思っています。

限りがあるから、ひとつずつ丁寧につくられる。限りがあるから、手にした人が大切にする。ezuが桐生で、機屋さんや染めの職人さんたちと一着ずつ服をつくってきたのも、同じ理由です。桐生でしかつくれないものは、桐生で。モンゴルでしかつくれないものは、モンゴルで。場所が先にあるのではなく、「そこでしか生まれないもの」が先にあります。

会いに行ってきました

この夏は、フェルトをつくる女性たちの組合、革の工房、帽子づくりのご夫婦、創業33年のカシミヤ工場を訪ねて、ひとつずつ話をしてきました。どの仕事場にも、桐生の職人さんたちと同じ、自分の仕事に誇りを持つ手がありました。

草原の暮らしと素材のことは、公式サイトにくわしく書いています。

なぜ、モンゴルでつくるのか
https://www.ezu.garden/blogs/activities/why-mongolia

ウール、カシミヤ、ヤク、キャメル。4つの毛の違いのことは、こちらに。
https://www.ezu.garden/blogs/thoughts_about_product/animal-fibers

冬に、最初の作品をお披露目できる見込みです。桐生のアトリエショップにも並びます。またこのブログでも、お知らせしていきます。

はじめての記事は、名前の話から始めたいと思います。

ezuは、群馬県桐生市で衣服をつくっているブランドです。いまの名前になったのは、2024年のこと。それまでの15年間は、「リップル洋品店(RIPPLE YōHINTEN)」という名前で活動していました。

始まりは2009年。桐生の自宅敷地内のアトリエショップから出発し、百貨店やマーケットでも販売するようになりました。一点ものの服。手づくりの色。桐生のものづくり。やっていることの芯は、当時もいまも変わっていません。

■着る人からもらった言葉

15年のあいだ、着てくださる方から何度もいただいた言葉があります。

「わたしらしくいられる服」

服をつくって、お渡しして、また会いに来てくださって。そのやりとりを重ねるたびに、衣服が持つチカラを感じてきました。時に静かに包み込むように。時に背中を押して前に進めるように。時に、見えない未来への道標となるように。

この言葉が、新しい名前の種になりました。



■ezuは「絵図」

ezuは「絵図」、絵で描いた地図のことばからきています。

身につけてくれる人に寄り添いながら、一人ひとりの絵図、つまりその人の地図となれるような衣服をつくりたい。その想いから、ezuと名付けました。

「絵」という文字は、糸へんに「会」と書きます。デザイナーの岩野久美子は、この文字の成り立ちを調べて、名前に「絵」の一字を含ませることを決めました。絵という文字の起源は、色とりどりに染め分けた糸を布に刺した、刺繍にあるのだそうです。糸が貴重で、布を織るだけでも途方もない時間がかかった時代に、大切な誰かを想って、祈りを込めて色を刺す。絵という文字は、そんなところから生まれた言葉でした。

岩野は、服づくりについてこう話しています。

「記憶は、服を着た状態で呼び起こされるのです。わたしは、誰かの忘れない景色のなかに入る一着をつくっているのだと、いつも思いながらつくっています」

このブログのタイトルにある「記憶の器となる服」は、この考えからきています。

ezuのロゴは、紙に手書きで描いたezuという文字を、鋏で切り出してつくった切り絵です。2つのezuの文字を、織物の経と緯が交じり合うように重ねて、ひととひと、ひととモノの交流を表しています。

■名前が変わっても、変わらないもの

名前は変わりましたが、変わらないものがたくさんあります。

リップル洋品店の頃から20年近く、布の裁断を担ってくれている職人がいます。同じ頃から、服を縫い続けてくれている縫い手がいます。一着の服に関わる人たちの手は、名前が変わる前から、ずっと同じです。

そして、お客さまのなかにも。

ブランドの前身と同じ「リプル」という名前の美容室を営む、ミサエさんという方がいます。出会いのきっかけは、お客さまから聞いた「同じ名前のお店があるよ」というひとことでした。以来10年近く、ezuの服を愛用してくださっています。

リップル洋品店からezuに名前が変わったとき、ミサエさんは「どうにかこの名前とつながっていきたい」と、新しく迎えた愛犬に「エズくん」と名づけてくださいました。

名前は、呼んでくれる人がいて、はじめて名前になります。リップル洋品店という名前を覚えていてくださる方も、ezuから知ってくださった方も、どちらもezuの絵図の一部です。

絵図の由来については、岩野本人が書いた随筆「絵という文字」を、公式サイトに掲載しています。

これから、このブログでは、新作やアトリエショップのお知らせ、お手入れの話、桐生でのものづくりの日々を綴っていきます。どうぞよろしくお願いいたします。