中部地方の中核都市、昭和もあと数年で終わりを告げる冬の終わり。

老舗のホテルで、300人を優に超える披露宴が行われた。現役の大臣が、新郎新婦それぞれの主賓席に座している。

不動産・小売業で成長を遂げた小野寺興産は、小野寺角二が一代で築き上げた。

田舎の貧しい家庭で育った角二は、持ち前の知恵と貪欲さを武器に、激動の昭和・高度成長期を駆け抜け成り上がった強者である。眼光は鋭く髪は薄い。

その隣で、総入れ歯の歯をカチカチ鳴らしながら、黒留袖に身を包み得意げなのが、小野寺ツネである。

 

「あらっ、おかあさま!貴子さんのお衣装は私の時より安くあげたのよね?」

「当たり前よ、着付けもメイク2流の高井先生のところよ!」

ツネ、佐久子は笑った。

 

小野寺家の長男、正夫の披露宴である。

貴子が嫁いだ小野寺家には、一条善造と結婚し家を出た長女佐久子、正夫の下に

京太、大介と2人の弟がいる。

貴子が育った正田家は、祖父、父、弟と3代続く法律家の家系である。

23歳での見合い結婚である。

 

後に貴子は子供たちに何度も説く。

「育った環境が同じ人、価値観の近い人を選びなさいと・・」

後悔先に立たずである。