僕は学生のとき、ミッドタウンのストリートを歩いていると

一人の若い男性に声をかけられたんです。

彼は、僕に名刺を渡すと、いまテレビの撮影に出れる人

探してるんで、今度の日曜日、名刺にある事務所に来てください

って言うんです。

僕は、その気になっちゃって、将来のハリウッドスターに!

なんて甘いこと考えながら、日曜日に事務所に向かいました。

事務所には、ストリートで会った若い男性が僕を出迎えると


早々に写真撮影をされ、何人かのおじさんたちと会い、用意された服

に着替えると、車に乗せられ、若い男性と一緒にブライトンビーチに向かいました。

撮影現場と言ってたけれど、トレーラーや有名な俳優さんの姿はなく、

若いイケメン男性と髭が特徴のおじさん、年配の男性カメラマンが笑い話

をしている、撮影現場とは程遠い、ファミリーでピクニックの撮影でもすかの

ような超質素な撮影現場だったんですね。

撮影現場なんて言ってはいけないような雰囲気のなか、僕たちは挨拶を交わし

撮影はスタートしました。偶然にも、僕はスペイン語がある程度話せることから

彼らのセリフが解ったのですが、どうも彼らは本国からニューヨークにやって

来て、ニューヨークの今を本国の人に紹介しているようなんですが、

台本もなく、僕はただ言いたいことだけ言えっていうぶっつけ本番の撮影で、

若いイケメン男性が話してたニューヨークのレストランの名前が

間違っている、本当の店名はこうだと訂正したんです。

そしたら会話が止まっちゃって、髭のおじさんは固まっちゃうし、

どうしていいか解んなくなっちゃうような現場の空気に

なっちゃったんですね。

でも、僕は何も悪いことしてないし、だいたい好きなように喋れ

っていったのは、むこうなんだし

って思って若いイケメン男性のほうをみたら、

少しムッとした顔しちゃてて、

何か僕のほうがムッとしちゃって

彼が腰に巻いていたタオルを剥ぎ取ってやったんです。

下半身裸になった彼、途端に撮影は中止となりました。

僕にクレームをつけるカメラマン、固まっちゃう髭のおじさん

真っ赤な顔をして照れてるイケメンの若い男性、慌ててる事務所の人

こんな段取りもしないなかで起きたハプニングは

僕のせいじゃない、と言い残し、僕はサッサと帰りました。

翌日、僕を撮影にスカウトした人から連絡が入り、

またアルバイトしてほしいと頼まれたのですが、あのいい加減な

現場の雰囲気が嫌で断わっちゃったんですけど、

数日後、とんでもないことが起きたんです。

僕が、いつも通り大学のキャンパスを歩いていると、

中南米系の女子学生たちの視線を感じ、

一人中南米系の男子学生が「テレビ見たよ」

って僕に、声をかけてきたんです。

聞くと、ブライトンビーチの撮影に間違いなく、

若いイケメン男性も、髭のおじさんも本国では

有名な人らしく、僕が怒ってタオルを剥ぎ取ったシーンも

ばっちり写ってた、っていうんですね。

あの現場をテレビで放映したっていうことは

視聴率を取ったに違いなく、僕は中南米で有名人

になれるチャンスを失ったってことになるハズ。

だからエージェント事務所に人が、しつこく僕に連絡したんだ

って思うと、大きなチャンスを見逃したんだと思うんです。

人生って、どこにチャンスがあるか解んないものですね。

あの撮影現場で、言いたいことを我慢しておけば良かった

と思っても、後の祭りなんですね。

数少ない人生のチャンスを掴むためには、ときには我慢

も必要なんでしょうか