なぜ人は愛する人を識りたいと切に願うのだろう?

 

それは、世界の真理よりも不可侵で、綿菓子よりも甘く儚い。

 

君のわずかな言動、ふとした仕草、僕に向ける微かな視線、

君の発する全ての表象が、艶美な帰納法へと僕を誘う。

 

そして、僕は永遠に近似解の辺りをさまよい続け、

気づけば孤独という名の無限に発散している。

 

もう僕はとっくに分かっているのだ。

 

君のことを識りたいと願えば願うほど、濾紙からにじみ出るようなあの哀しみが、僕の青臭い情熱を腐食させる。

 

 

もう僕はとっくに分かっているのだ、

君という存在は一現象でのみあることを。

 

 

僕しか識らないんだ、君の愛らしい小動物のようで、

時折媚びるようなやわらかな瞳。

僕の鼓膜から心臓までを激しくゆさぶり続ける適度に低く甘いその声。

独自の感受性が紡ぎ出す常に僕を魅惑する謎めいた言葉たち。

 

でも、全部僕の世界の一表象に過ぎないんだ。

 

君こそは、掴もうとすれば忽ち消える、確実な一瞬の連なり。