FF(future fiction)

(近)未来物語

「日本消滅」 

 ……そして倭(やまと)国創建へ (2)

 

首都圏の異変に関する情報は 湖南地方へもさまざまな形で入り始めた。

よそからやってくる人の口から ラジオを聴いた人から あるいはハム(無

線通信)をやっている村人から それぞれが耳にした情報がさまざまな角

度から交差した。

曰く 爆弾が落ちたらしい 曰く 戦争が始まったようだ 史上最大の地震

が関東全域で起こった 人が何千人も死んだ 等々。

テレビはどの局も受信出来ず ラジオ放送は一部大丈夫らしいので 

人々の多くは昔のラジオを探し出し あるいはカーラジオを点けて ラジオ

のニュースにかじりついた。

しかし ラジオのニュース番組でも 東京やその周辺県の「異常事態」に

関する情報はほとんど把握できていないらしいことが分かった。

ニュース番組と言いながら 実態はクラシックやポピュラーの音楽を流し

そのインターバルに同じ断片的情報を繰り返し伝えるだけで 到底ニュ

ース番組にはなっていない。

JRは 新幹線も在来線も東海道は名古屋以西が2時間に一本の間隔で

速度を大幅に落として運行しているらしい。東北は福島と会津若松以北

で折り返し 中部と北陸は間引きながら2時間一本のペースで速度を落

として運行しているとラジオが流している。

とにかく首都圏 及び群馬 栃木 茨城 そして長野に関する情報は皆

無である。 

空の便は 羽田 成田だけでなく 仙台 山形 静岡 松本も発着が出来

ないらしい。また 小松は伊丹空港便に限定して運航しているという。

 

何より 地勢的に東京及び首都圏を囲む群馬 栃木 長野などで非常に

多くの住民が 「東京方面に 今まで見たこともないほど大きな 真っ赤な

キノコ雲が見えた」と証言している。

それは 原爆の爆発によるものかもしれないし それ以外の事故によるも

のかもしれない。日本と極度に関係の悪化している国はあるが 日本に

宣戦布告してきた国は今のところ無い。また 現実に空からも海からも他国

からの攻撃は今のところ無い。

 

いずれにしても 肝心の東京及び周辺県との交信 交通が全て途絶して

いるという異常事態 緊急事態に直面し その原因調査に 各道府県の

自衛隊 警察本部が連携して動き始めた。

陸上自衛隊の大型ヘリコプターが周辺各駐屯地から飛び立ち それぞれ

隊員10名ずつと偵察用オートバイ 水・食糧・救護用品等を積んだ3トン

半と呼ばれる大型トラック10台ずつを派遣し 首都圏の北からと南から

調査を開始した。

すると 待つほどもなく 大量の信じられないような事実が無線で次々と

送られてきた。

地上に何も見当たらない。

人も動物もいない 鳥も飛んでいない

植物も 一本の木も無く 草も無い

何よりも そこに在ったはずの高層ビルやタワー 人家 道路や信号など

さまざまな構築物が 嘘のように全て掻き消えている。

視界に入るのは ただ赤く焼けたような大地と大きな岩や石だけ。

GPSを頼りに 各隊が携行した地図と照合すると 「東京都」と呼ばれた広

い地域には地上に何物も見当たらない。

茨城県は 水戸 土浦を含め全域 千葉県が在ったところも全て 群馬県は

宇都宮 桐生 前橋 熊谷までの平野部全て 埼玉県は全域 神奈川県も

横浜を初め沼津 伊豆半島を含めほぼ全域で 地上に在ったはずの物が何

一つ無い 見当たらないという 

全て符丁が一致したような報告が次々に入った。

TVの映像は無いが 辛うじて基地局の存在する携帯電話から動画も入り始め

報告を受けた自衛隊本部 警察本部では 上から下まで一様に信じられない

思いで映像を見つめ 音声を聴いた。

 

しかし 誰よりも信じられない思いをしたのは 派遣された隊員たちであった。

切り取られた映像ではなく 眼前に360度のパノラマのように広がる 見渡す

限りの土と岩石の荒野を自らの目で見ているのだから。

隊員一同 ただ声も無く 使命も忘れて見つめるばかりであった。

(首都圏が消えた跡の荒野 想像図)                             ©exodusjp

 

念のため ガイガーカウンターとかサーベイメーターと呼ばれる放射線検知器で

計ってみると GPS上で「東京」であった地域に近づくほど加速度的に放射線量

が高くなる。

したがって 北からの調査隊も南からの隊も 危険放射線量に達する直前の90

ミリシーベルトを計測した地点から先へは進まなかった。これ以上は 放射線防

護服を着用し それも短時間で退去しなければならない。

なぜ? 空中放射線量がこんなに高いのか? 現地に入った隊員も本部の幹部

たちも 行き着く答えは核爆弾の爆発以外に無かった。

 

その時 ずっと不審そうに首を傾げていた看護師の若い女性隊員がおずおずと口

を開いた。

「あのぉ 発言してもよろしいでしょうか?」

先輩隊員が頷くと

「馬鹿な質問かもしれませんが 地上にビルの瓦礫も無ければ 人や動物の亡骸も

一つも見当たらないのは 何故なのでしょうか? 爆弾で破壊されたとしたら 破壊

された物の残骸があるはずですが?」

先輩隊員たちは 一瞬 一様に看護師隊員を睨みつけたが 実は隊員全員が 言い

出さないままに そのことを一番大きな疑問に思っていたのである。

誰もそれを口にしなかったのは 自分が周りからバカにされるであろうという憶測が

あったからであった。そこへ 新人の若い隊員からそのことをズバリと指摘されて 全

員ようやく我に還ったような気持になった。

「なぜ 瓦礫も死体も 何も無いのか?」

 

そこで漸く そのことを最も重かつ大の事実として 班員全員の疑問として その班の

本部へ報告した。

本部では最初 「何をバカな報告をしてくるか」と叱責にも等しい応答をしていたが 次

第にどの派遣隊からも同じような重大な事実を事実として単純に疑問として捉えた報告

が返ってきた。

 

(これは筆者の人生経験から間違いなく言えることであるが ある物事(事案)が発生した時

米国ではしばしば[issue]と呼ばれるが その「イシューマネジメント」をする場合 最も重要な

ことは ファクトに対して単純で純粋な疑問を抱き それを投げ掛けてみることである)

 

念のため 地上150㎝の位置での大気中の放射線量と地表の線量 そして地表

から50㎝の地中の線量を測定するよう 本部から各派遣隊へ指示が出た。

そして翌日 各地から集められたデータを見た本部では全く予想外の結果に驚い

た。

地上150㎝での放射線量は どの地点でも平均50㎜シーベルトあったが 地表は

5~10ミリシーベルト そして地中の放射線量は 何とどこもほぼゼロなのである。

その調査結果を見て 本部ではますます困惑の度が高まった。なぜ 地中の放

射線量はゼロなのか?

 

その結果を受けて 本部は各班へ新たな指示を出した。

大気のサンプルを採取して持ち帰ること

地表の岩石 土のサンプルを採取すること

地下1mの岩石 土のサンプルを持ち帰ること

もちろん 採取の場所をGPSの位置どおりに明示すること

 

各班が持ち帰った大気と土・岩石のサンプルを大学の地学・地質学研究室で調べて

もらった結果 驚くべき事実が判明した。

それは土・岩石ともにもともと大地の表層部分に在ったものではなく どうやら海底を

構成していた「地殻」の一部であったものではないかという意見で各大学の分析結果

が一致しているということである。

地殻を構成する主要成分である花崗岩と玄武岩の他 何種類もの貝類の残骸が多数

含まれるらしい。

(画像はお借りしました)

 

つまり 誰も信じられないほどの 恐るべき巨大な自然災害が起こった という仮説を

立てねばならない事態になったということである。

 

こうして 各隣接県に設置された本部とも一次派遣隊の任務を終了させ 各本部の間

のオンライン会議を開催した結果 各大学の地質学及び地学専門教授をトップに より

大規模な第二次派遣隊を可及的速やかに組織し派遣することになったのである。

 

<つづく>