このブログは「KPOPアイドル戦国時代 ①"乱世"という共通点」からの続編です。
◎天下人の戦略
尾張国の百姓の家に生まれた秀吉。由緒ある名門の家の出身でない彼だったが、実力主義の織田信長のもとで頭角を現していく。
信長の草履を懐に入れて温めておいたという有名な逸話もある通り、彼は人の心を掴むのが非常に上手く、上司や部下双方に好かれて出世していった。
それに加えて政治手腕も卓越したものがあった。信長が本能寺の変で死んだ後、誰よりも早く京都に駆けつけ、謀反人明智光秀を討つなど、常に先を見通した冷静な判断力で信長の後継者の位置を獲得し、天下統一を果たした。
名門の家の出身というわけでも、特別武勇があるわけでもないが、人間性と政治手腕で天下を掌握した彼は戦国時代の中でも稀有な存在であろう。
さて、話をKPOPアイドルに移そう。
現在、KPOPファンはもちろん、KPOPを聴いたことのない層でもBTSの名前を知らない人はほとんどいないだろう。
KPOPアーティストとして初めてビルボードで1位に輝き、洋楽のトップアーティスト達と肩を並べて活躍する彼らは、まさにKPOPアイドル界の "天下人" だ。
ところで、彼らはデビュー当時から今のように有名だったわけではない。彼らが所属する事務所は非常に規模が小さかった。
戦国時代に、武田信玄の武田家、上杉謙信の上杉家、毛利元就の毛利家のような名家が存在するのと同じく、KPOPにも有名な3大事務所と呼ばれる名門事務所が存在する。
少女時代らが所属するSMエンタテインメント、BIGBANGらが所属するYGエンタテインメント、TWICEらが所属するJYPエンタテインメントだ。
これらの事務所は新しいグループをデビューさせる時、大々的なオーディション番組を企画したり、メディアや広告で広く知らせたりするなど、莫大な資金力で彼らを宣伝する。
その結果、その他の事務所のグループとはデビュー時点から既に知名度の大きな差が生まれてしまうのだ。
実際、その他の事務所のグループが、3大事務所出身のグループの人気を超えることはかなり難しい。
3大事務所のロゴマーク
上でも述べたが、BTSの事務所であるBig Hitエンタテインメントはこれら3大事務所には知名度と資金力も遥かに及ばない小事務所だった。彼らはデビュー時、韓国国内でも知名度が低い状態からスタートしたが、今では3大事務所のグループたちをも凌ぐ地位にまで上り詰めた。
そこには、彼らを他のグループと差別化する "天下人の戦略"があった。
●一貫したメッセージの発信
アーティストにとって、楽曲を通してメッセージを伝えるということはとても重要である。
BTSは歌詞を通してメッセージを発信することはもちろん、アルバムをシリーズ化してリリースすることで一貫したメッセージを伝え続けてきた。
デビューアルバムとセカンドアルバムでは韓国の過激な学歴社会への風刺を織り交ぜつつ、現代社会に生きる若者達に夢を抱く大切さを伝えた。
その後は、"花様年華"シリーズと銘打ち、3作のアルバムを通して、青春時代の若者が抱く儚い感情や葛藤を歌詞やMVの描写に込めて伝えた。
世界的な人気を得た後は、"Love Yourself"シリーズで3作のアルバムを通して、自分自身を認め、自分らしく生きることの大切さを伝えた。
花様年華シリーズを象徴する一曲、「Run」のMVでのワンシーン。
思春期の青年が抱く感情を、年代の近い彼らが等身大の姿で表現している。
(画像はyoutube BTS 「Run」MVより)
BTSが登場するまで、正直私もKPOPアイドルの曲は恋愛を歌った、似たような歌詞のものが多いと感じていた。そんな中、BTSは主に若者が実際に抱える想いに寄り添い、彼らを励ます様なメッセージを複数のアルバムに渡って一貫して伝えてきた。
これらのメッセージがより説得力を持って伝わるのは、彼ら自身が作詞作曲に深く関わっているということが大きく影響している。
特に、リーダーのRMやラッパーのSUGAはソロのアルバムを複数リリースするほどプロデュース能力が高い。
2人以外のメンバーも作詞作曲に積極的に挑戦しており、7人のメンバー全員がBTSの楽曲のプロデュースに関与している。
このように、アイドルに求められるダンススキル、歌唱力、ビジュアル、人間性に加え、自分たちも楽曲のプロデュースに参加し、一貫したメッセージを発信するという、アーティスト的な側面まで兼ね備えていることこそ、BTSを他のグループと差別化した大きな要因の一つだ。
BTSの世界的人気を考察した『BTSを読む』の著者、音楽評論家のキム・ヨンデ氏も、Real Soundのインタビューにおいて、
BTSは自分たちで歌詞を書いて曲を作っている。一般的な話ではなく、自分たちの物語、現代を生きる人間としての物語を具体的に描いている。そのことこそが、KPOPアイドルに対し、会社の命じるままに活動するというマイナスイメージを持つ人もいたアメリカでも受け入れられた原因であるという旨の発言をしている。
BTSは自己プロデュース性以外にも、SNSを効果的に活用して全世界にファンを拡大してきた。
上で述べたように彼らの事務所は弱小であったため、デビュー当初はなかなかメディア露出の機会を掴めなかった。そこでSNSを最大限活用し、メンバーの日常生活の一コマを事細かにアップするなどファンとの交流の機会を多く設けてきた。それが功を奏し、SNSコミュニティでじわりじわりとファンを増やしてきた。
現在、SNS上での彼らの人気は規格外だ。
気になる人はTwitterでBTSと検索して、彼らのアカウントを調べてみてほしい。おそらく今まで見たことのないほどのいいね数とリツイート数に驚愕するはずだ。
彼らの最近のツイートの多くは200万いいねを超える。私が先日見つけたツイートはなんと320万いいね...これにはさすがに私も度肝を抜かれた。
さて、以上のように豊臣秀吉とBTSは決して恵まれた境遇ではなかったが、彼らだけの才能や戦略を存分に活かし、乱世の頂点にまで上り詰めた。
だが、頂点の位置にいるからと言って安心できるということは全くない。
実力を持った "兵" (つわもの) が現れ、頂点に君臨する権力者に挑戦するのが乱世の常だ。
彼らの名は真田幸村とB.A.P
赤と金、奇抜な出で立ちで時の権力者に勝負を挑んだ "兵" たちの生き様を見てみよう。
(「KPOP戦国時代② 赤と金、天下に挑戦した"兵" たち」に続く)