声を押し殺して泣く声が聞こえる
それは悲しいというよりも
恐怖に震えているようで・・・・・・
不意に袖を引っ張られ、ギョンスは閉じていた目を開く
すると、真っ白な世界に小さな自分が隣に立っていた
その子は何とも読めない表情(かお)をして、赤い瞳をまっすぐにギョンスに向ける
ギョンスはその子が "もうひとりの自分" だということは、すぐにわかった
「キミが・・・・ディオなの?」
子どもは答えるでもなく、袖を掴んでいた手を離す
「・・・はじまるよ」
「え?」
「・・・泣かないで」
「え?どういうこと?」
宥めるかのような声音で予想もしていなかったことを言われ混乱しているギョンスを置いて、ディオという子どもは白い光の中に消えていき、再び光がギョンスを包む
「・・・・ンス?・・・ギョンス・・・!」
「ん、、ジョンイナ?」
目を覚ますと、横になってるギョンスを抱えたジョンインが心配そうに何度も自分の名を呼ぶ
「ギョンス、大丈夫?立てる?」
「うん、大丈夫・・・・・ここは?」
先程いた家とは全く異なる家に居ることは、家具や家の構造から一目瞭然だった
そうでなくとも、自分の今居る場所はどこかと口にしているかもしれないが、何にせよ、ギョンスは自然と疑問を投げかける
ジョンインはわからないと首を横に振る
ゆっくりと立ち上がり辺りを確認するギョンスを見て、ジョンインは大丈夫そうだとわかりほっと安堵する
「僕らがいたあの家じゃないのはわかるけど・・・」
ふと窓の外を見たギョンスは言葉を失くした
その様子をジョンインは意外にも冷静に見ている
ギョンスは助けを求めるようにジョンインに振り向くと、ジョンインはゆっくり頷いた
そう、彼らが見た窓の外には、夜中にこっそり出てきたはずの教会が向かいに佇んでいるのだ
「俺も目が覚めたとき驚いた。思わず外に出てみたけど、俺たちが入った家じゃない、全く別の家にいるんだ」
ジョンインの話に言葉をなくすギョンス
最初の家には一度も出てはいないのに、全く異なる家の中に居る
ーどうやって?
あの光に包まれてワープしてきたというのだろうか?
考え込むギョンスにジョンインが声をかける
「2階を調べて見よう。あの家に居たとき、奇怪なことが起きたのは2階に行ってからだった。それでここに飛ばされたのなら、またもとの場所に戻るかも。もしくは違うところに飛ばされるか」
「・・・何にせよ、調べてみよう」
ディオの言葉が引っかかるけど、自分たちに起こった現象を突き止めようとギョンスは無理やり意識を集中させた
2階に登るとやはり造りも家具も雰囲気も全てが異なっている
あの家よりも今居る家の方が小さいのか、部屋はふたつほどしかなく、奇妙な女の子部屋でも冷たい男の子部屋でもなく、極一般的な部屋だった
奇妙な現象もなく、あの白い光に照らされることもない
もしもあの光が要因なのであれば、それまでに起きた超常現象は前触れなのだろうか?
「何も起こらない・・・」
何か手がかりになりそうなものもなく、仕方なくふたりは家を後にし、教会に戻る
だれにも気づかれないようになるべく物音立てずに静かに入るが、人の気配は全くない
「・・・スホヒョン?」
「・・・・・・誰もいない・・・・・・?」
ギョンスとジョンインは手分けして教会の中を全て探しはじめた
教壇の後ろやベンチの下、個室に洗面所、シャワー室と探しても誰ひとり見つからない
「もしかして・・・みんな僕らが居なくなったことに気づいて探しに出ちゃったのかな?」
「じゃあ、あの家に行ったんじゃ・・・」
「もしそうなら、みんなが危ない!」
ふたりはハッと息がつまる思いに追い込まれ、教会の扉に走り出す
すると、背後の教団から拍手が聞こえた
振り返ると黒で統一した服装の男が教壇に座り、長い脚を組み、可笑しそうに笑いながらふたりに拍手を送っていた
「誰もいなかったのに・・・いつの間に入ってきたんだ?」
「何言ってんの?僕は最初からここに居たさ」
キツくつり上がった目で怪しく笑う口元には合わない無邪気な声の青年は、クスクスと子どものように笑っている
「キミたちが来るのをずっと待ってたんだよ」
「僕らを?」
「知らねぇな、だれだよ、あんた」
ギョンスを庇うように腕に収め、睨みを利かすジョンイン
だが、青年には効果は見られず、相変わらず笑っている
「怒らなくてもいいじゃない。僕らは数少ない仲間なんだから」
「・・・仲間?」
青年の言ってる意図がわからず首を傾げるギョンスに、青年は「あのね、」と話す
「キミたちも知ってるでしょ。僕らは"ふたりでひとつの命"をもつ者。"ひとりなのにふたりの気配をもつバケモノ"じゃない」
「「?!」」
「だからこうして僕らは繋がったんじゃないか」
「・・・あんた何言ってんのかさっぱりなんだけど」
「もう、そう怖がらないでよ。僕は今とっっても嬉しいんだから!」
「こっちは全っっ然嬉しくもない。俺たちはあんたに構ってる暇はない。行こう、ギョンス」
「行くってどこにさ?君たちの目的の場所は"ここ"にあるじゃない」
子どものように甲高い声で笑いながら彼が指さす先には、外見があの家にそっくりなドールハウスが、ギョンスとジョンインの目の前に"いつの間に"か置かれていた
「ずっとひとりで遊んでて退屈してたんだから〜ほら!壁を開けて僕と遊ぼうよ!」
見た目とは異なり無邪気な子どものような男にふたりは異様に感じた
自分を警戒するふたりの様子に気づいた男は、ああそうか!とにこやかに手を伸ばした
「自己紹介がまだだったね!はじめまして!僕の名前は"タオ"だよ!カイとディオは久しぶりかな?」
最後の一言にギョンスは眉をしかめる
「もうひとりの僕らに、会ったことがあるの?」
「そうだよ。君たちが出会うずっと前にね」
挑発するかのようににやりとほくそ笑むタオは、ギョンスとジョンインがずっと知りたかった真実(こと)を知る人物だと直感した
「・・・もうひとりのあんたの名前はなんて言うんだ」
先程よりも警戒しているジョンインは、今にも噛みつきそうな程タオを睨みつけながらも問いかける
「僕らは"君たちと一緒"だけど少し違くて"特別"なんだ」
「どういうことだ?」
「僕らは一緒に"生まれた"から"どちらも"タオっていうんだよ」
「言ってる意味がよくわからないんだけど・・」
ギョンスの言葉にええ?鈍感だなぁ〜とぶーぶーと泣き始めるタオ
聞きたいこと、知りたいことがたくさんあるのに、タオは遠回しに答えるため、まったくわからないギョンスとジョンイン
そんな彼らにタオは大袈裟にため息を吐くとしょうがないなと子どもに語るかのように、ふたりになげかける
「僕たちは仲間だと言ったでしょ?君たちはなんで"ひとり"なのに"ふたつ"の生命(たましい)をもつの?どうして"ふたり"で"ひとつ"なの?」
「おい!質問に答えてな「君たちは覚えていないの?」」
痺れを切らしたジョンインを制するかのようにタオはドス黒い声を出す
「死にたくないと強く願ったことを、覚えてないの?」
……To be continued