Side K
昨日の夕飯のこと。
今日の朝食と弁当のこと。
そして俺の母親の勝手な言い分のこと。
お礼を言いたかったのに言えなくて。
昨日シェアハウスの方に行ってギョンスの友人に俺たちのことを話したことも伝えたかったのに。
こういう時に話すのが苦手な自分がイヤになる。
俺からちゃんと言うべきだったのに。
ギョンスにずばり言われて落ち込んだ。
そうだなと思ってごめんと口にしたら、ギョンスのほうが悲しそうな顔してて、慌てて外に飛び出してしまった。
どうしてギョンスがそんな顔するのかわからない。
ふと、昨日のチャニョリヒョンの言葉を思い出す。
"キツいかもだけど人見知りなだけなんだよ。本当は人付き合いに臆病なだけなんだ。だからさ・・・ーー"
どこに行ったのかはわからないけれど、ぱっと思いついた場所に向かって家を出た。
とりあえず、シェアハウスに行ってみるか。
Side D
つい飛び出してきちゃったけど、シェアハウスに戻ったらもし探しに来た使用人とかに強制送還されるだろうし。
だからといって行く宛もなく、ただぶらぶら歩き回って辿り着いたらスーパーだったからついでに買い物を済まして、遠回りしたら夕方くらいになって自らの足で家路につく。
いい年して何してんだろ、僕。
パーッパーッ
角を曲がってすぐの交差点に辿り着いた途端、クラクションと同時にトラックが突っ込んできた。
キキーッ
Side K
キキーッ
どん!
「事故だ!」
「だれか!救急車呼べ!」
すぐ近くの交差点でものすごいブレーキ音と共に衝突の音がして、人手の多いこの道ではいろんな人がわぁわぁと騒ぎ出す。
シェアハウスに行っても戻ってないって言われて、近くの公園や図書館を探すけど見当たらなかった。
「交通事故?」
ふいに道行く人たちの話声が耳に入る。
「どうやら高校生くらいの青年がトラックに跳ねられたらしい」
「まぁ可哀想に」
「高校生?」
「ちと小柄な青年だそうだ。目撃者によると何か急いでいたらしく赤信号に点灯したのにも関わらず飛びだしたらしい」
そんな・・・まさか?!
"高校生くらい"
"小柄な青年"
"何か急いでいた"
ギョンスに当てはまる発言の多くに焦りと不安といろんなものがごっちゃになって、人混みをかき分けて青年のもとへ駆け寄る。
「ギョンス?!」
Side D
自分で勝手に出ていったのに、数時間しかたたないうちに自ら家に帰るとかなんともおかしな話だ。
物音ひとつしない静まりかえった部屋。
彼がまたいないことが知りたくなくてもわかってしまう。
「どうして僕はこうも人付き合いが悪いんだろう」
本当はあんなこと言いたいわけじゃなかったのに。
ガチャガチャ、バン!
「ギョンス?!」
キッチンルームの扉を開けた瞬間に、乱暴に開けられた玄関に振り向くと、血相を変えた彼が帰ってきた。
ハァハァと息は切れてどこか様子がおかしい彼にどうしたのかと聞こうとしたら、彼が黙ってどんどん近づいてきた。
腕を引かれて殴られると目を瞑るけれど、痛みは全身に広がり、眼を開いて現状を確かめるけれど、驚きのあまり抱きしめられてると頭が理解するのに時間がかかった。
「ちょ、ッと!何?!」
「・・・・・・・・・った」
「え?」
小さく弱々しい声が聞き取れなかった言葉を繰り返す。
「無事でよかった」
安堵した声に確認するかのように抱きしめる腕。
もしかして・・・
「・・・心配、してくれたの?」
「・・・・・・うん」
素直に返ってきた言葉になぜか胸が苦しい。
「・・・・・・すぐ近くの交差点で事故があって、、小柄な男子高校生がひかれたって聞いて、もしかしたらギョンスかもって焦った」
ゆっくり離れるけど、両手で頬を包んで僕の顔をじっと覗く。
「・・・ギョンスが無事でよかった」
ふにゃりと笑う顔に、さっきよりもギュッと胸が締めつけられて、顔を逸らしてしまう。
「こ、このとおりピンピンしてる」
なぜか顔が熱い。
心臓がうるさい。
「うん。よかった」
「・・・しつこい」
「うん」
くしゃりと笑う顔はなぜか嬉しそうで。
子どもみたいな彼に自分が拗ねてるのもバカバカしくなる。
「すぐそこの交差点って人通りの多いあの交差点?」
「よくわかったね」
「あ〜やっぱり。あそこ結構危ないよね。僕も帰ってくるときトラックが突っ込んできたよ」
「え?!」
「事故りはしなかったけど、あそこあのくじ引き屋があるせいで結構死角になってるよね」
「・・・ギョンス、もうあの道通っちゃダメ」
さっきとは違い、ムッとした表情で低い声の彼に怒るとこそこ?!と驚く。
「あとギョンス携帯どうしたの?」
「え?あ、カバンに・・・」
さっき言い合い(というか僕が一方的に言って逃げ出した)ときにカバンに入れっぱなしで、そのカバンは玄関先で投げ飛ばしてそのままだったっけ。
かろうじて財布は制服のポケットのなかに入ってたけど。
「財布は持ってたのに?」
僕の持ってるスーパーの袋を見て怪訝そうな顔の彼。
・・・言いたいことはよくわかるよ。
僕自身も買い物してるときに思ったから。
「携帯は肌身離さず持ってて。俺何度も電話したんだから」
「・・・ごめん」
「ギョンスが心配だから持ってて」
「・・・・・うん」
それ以外何も言えなくて俯く。
「それと、」
まだ何かあるのか?!
「さっきはごめんなさい」
は?
「ギョンスにいろいろ迷惑かけてごめん」
な、
なんでお前が先に謝るんだ?!!!
「ご飯もありがとう。すごく美味しかった!」
またふにゃりと笑う無邪気な笑顔に全部持ってかれてしまい脱力する。
「ギョンス?!」
「ハァ、もう。お手上げだよ」
まるで子どもの喧嘩の仲直りみたいで可笑しくなって笑いが込み上げる。
「・・・お坊っちゃんの舌には合いましたか?」
「!すっげぇ美味しかった!あんなに美味しいの初めて食べたよ!本当に!これからずっとギョンス作ってよ!」
子どものようなランランとした目で言われちゃ作るしかないじゃないか。
「好き嫌いはダメだからね」
「ええ〜」
あの言葉がお世辞だとしてもすっごく嬉しかったのは、言ってやらない。
……To be continued