「ん・・・」
カーテンから差し込む光に起こされてはじめて寝ていたのだと知る。
「いつの間にか寝ていたのか」
シェアハウスの自室で読書中に寝落ちしたら、ベッキョンだったら容赦なく叩き起されるし、チャニョルだったら僕をベッドに運んで寝かせてくれるだろうな。
なんて、朝から友人のことを考えてる自分に笑えてくる。
「よっ・・・と?」
立ち上がった瞬間足元に何か落ちて拾ってみたら掛布団だった。
あれ?僕昨日膝に掛けて・・・・・・ないよな。
ってことは・・・!
彼が帰ってきたのだとわかり部屋を飛びだしてみたけれど、部屋にもリビングにも姿はなくスタジオにも居なかった。
「・・・・・・まさかな」
入りたくはないけれど寝室を覗いて見たら寝台の上がふっくらと盛り上がっており、彼の存在を示していた。
「いつ帰ってきてたんだ」
ぐっすりと気持ちよさそうに眠る寝顔にイラっときて鼻を摘むが、彼は不快そうに唸って顔を背けるとまた夢の世界へと戻ってしまった。
(自由人だなぁ・・・)
とりあえず朝食を作りに部屋を出てキッチンに来ると、彼のために残して置いた夕食の食器が洗面台に置かれていた。
「・・・食べてくれたのか」
2人分のサムゲタンは残さず綺麗に彼のお腹に収まったらしく、ごちそうさまと気持ちよく食べてくれたようだ。
今日は一週間の始まりの日だ。
彼も学業か仕事があるだろう。
彼と住むと諦めはしたけれど、同じ屋根の下住むのに相手のことを何ひとつ知らないというのはこういう時に少々不便だとはじめて気づく。
「仕方ない。朝と昼の分も用意しとくか」
優雅に自分はベッドで寝ていたけれど、図書室で寝てしまった僕に掛布団は掛けてくれた彼にお礼として二食分を用意しておく。
「・・・こんなの今日だけだし」
だれに言い訳してるのか分からないけれど言わずにはいれなくて「そうだよ。今日だけだ!次は自分で作ってもらうし!」と大きなひとり言を言い続けた。
「おはよう」
「「ギョンスーーーーーーー!!!!」」
「わっ!ちょっ!痛っ!」
教室に入った瞬間にちっこいのとおっきいのにタックルされてドアに頭を打った。
くっそ!このバカニョル!
力加減ぐらいしろってんだ!
ベッキョンは俺は知らないと平然とした顔してコノヤロウ!
「お前なんで何も言わないわけ?」
「突然知らない人たちがギョンスの荷物持ってちゃうし、ギョンスは帰ってこないしあげく連絡ひとつないからすっげぇ心配したんだかんな!」
耳元でガンガンでかい声で責め立てられて耳にキンとくる。
「ごめんね。携帯の電源切れちゃって充電してたんだよ」
どこにあるのか見当たらなくて見つけるのに広い家の中さんざん探して時間かかったしね。
「お前の婆ちゃんとこに連絡しても相変わらず会話にならねぇし、チャニョルにキム家に行かせたけどチャイムも押せずに帰って何も分からず終いだったんだからな!」
「イヤイヤイヤ!無理だからね!あのキム家に乗り込むなんてことできないからね!できるわけないでしょ!」
朝からぎゃんぎゃんと
「ま、事情はキム家の息子が直接話に来てくれたからわかったしいいけどよ、お前も手紙でもいいから連絡くらい寄こせよな」
「え?彼が来たの?」
「え?なに、お前知らなかったの?てっきりギョンスがジョンインに頼んだのかと思った」
「わざわざ正装して挨拶に来た時は驚いたなぁ。使いの人じゃなく本人ひとりで来たから俺感心しちゃったよ」
知らなかった。
昨日は気づいたら彼の姿がなくてどこか遊びにでも行ってるのだとばかり思ってたから。
まさか自分のシェアハウスの友人に挨拶に行ってただなんて思いもしなかった。
「婚約っつっても1年同居するだけなんだろ?あんなに礼儀正しい優しい奴早々居ねぇし仲良くしろよな」
「ジョンインも家に来てくださいって言ってくれたし偶には遊びに行くね」
他人には厳しいベッキョンには好印象を持たれてるし、チャニョルとはなぜだかすごく親しくなってるし。
今日ふたりに話せばまだなんとかなるんじゃないかと、ココロのどこか片隅に抱いてた期待は見事に散っていった。
「・・・僕、アイツが何考えてんだか全然わかんない」
そういう事ならどうして僕に一言言ってくれないのかな。
「金持ちって傲慢な奴らばかりだと思ってたけど、あのジョンインって奴は優しくて礼儀正しかったぞ」
「そうそう!ギョンスのことも知りたがってたし。ちゃんと人と向き合う人だったよ」
ふたりがそう言うのなら僕が思っているより悪いヤツではないのかもしれない。
けど、
「アイツが知りたいのは僕じゃない」
アイツが本当に知りたいのは僕じゃない。
「お前も頑固な奴だな」
「(ムッ)」
「ハハッふたりともなwww」
「「チャニョルうるさい」」
「(似たもの同士じゃん)」
ハァ、帰るのが億劫だなぁ〜・・・・・・
「あ・・・・・・おかえり」
「・・・・・・ただいま」
なんとも言えない空気が流れ、互いにぎくしゃくして居心地が悪い。
「あ、ねぇ!」
何も言わずにその場を離れようとする彼を引き止める。
彼も立ち止まり無表情のまま振り返る。
「・・・友人から聞いた。僕の前の家に行ったんだって?」
あ、
「どうして僕に何も言ってくれないの?」
あれ?
違う。
「昨日だって夜遅くなるならそう言ってくれないと困るんだけど」
こんな風に責めたいんじゃなくて・・・ーー。
「・・・・・・ごめん・・・・・・」
悲しそうな顔で俯く彼に、
胸が痛くて、
思わず外に飛び出してしまった。
違う!
ちがうよ。
そんな顔してほしいんじゃなくて・・・ーー。
……To be continued