Side D
キム家のとんでもない発言に驚いてる間に勝手に用意された家に連れてこられた 。
来て早々に驚いたのは、それぞれ部屋があってもそこに寝台はなくわざわざベッドルームが用意されていたこと。
男同士だというのにダブルベッドが部屋の真ん中にあり、わざわざ小さなシャワールームまであった。
(いったいあの女は何を考えているんだ?!)
ふたりで住むには広すぎる僕たちの家は防犯システムもバッチリな一軒家。
まだ高校生だというのになぜこんなにも立派な家に住まなくてはいけないのか。
しかも、男と。
いつの間にか僕の荷物はほとんどこの家に移されていて、服はすべて箪笥やクローゼットに丁寧に整頓されていた。
シェアハウスでの自分の部屋でも物が少ないほうだったのに、この家の自分の部屋は更に床が見えて余計寂しげな空間になってしまった。
服も多くはないから、まるで自分が貧しい人のように見える。
窓の外は、向かいのじいさんが縁側で将棋をやってるいつもの景色ではなく、花と緑が広がる風景と変わってしまった。
昔、夢見ていた景色ではあったけれど、こんなカタチで叶うなんて嬉しくもなんとも無い。
机の上に置かれた本とその側にある写真立てに 幸せそうに微笑む男女に目を移す。
「とんでもない約束残してくれたね」
怒る気力もなくなり、この生活を1年送るしかないと諦めた。
けれど、気になることは沢山ある。
あるけれど
「なんで、何もいわずにいってしまったの」
返ってくる声はないとわかっていても、聞かずにはいれなかった。
家中を一通り探索し終えて時計を見るともうすぐ18時になるところだった。
「これ以上ウダウダしも仕方ないし、夕食でも作りますか」
日が落ち真っ暗闇が濃くなった空をカーテンで閉め出し、キッチンに立つ。
そうそう、この家で驚いたことは他にもある。
調達しに行かなくても1ヶ月分は用意された食糧。
壁いっぱいの図書室になぜかダンススタジオまであった。
一部の部屋しか知らないけれど、それでもキム家の本家もデカくて広かったし、ココにある部屋はいくつかあるのだろうな。
やっぱり金持ちの考えることはよく分からない。
そういえば、あのジョンインという男はどこへ行ったのだろう?
この家に来る道中、車の中で黙り込んでいた。気づいたらいつの間にか家には居なかった。
「あのダンススタジオは彼のためにあるんだろうな・・・」
社交ダンスとか?
キム財閥の跡取り息子なのだからダンスパーティなどの機会は多くあるだろうし。
「そういえば、彼は何を食べるのかな?」
一庶民が作る庶民の食事は口にはしないんだろうなぁ。
でも、文句は言わせない。
普段は使用人に身の回りはなんでもしてもらってるだろうけど、僕は一般庶民。
自分のことは自分でするのが基本!
「・・・夕食だけは作っておくか」
とりあえず鶏肉の量が異様に多いから、作り置きに唐揚げでも作っておくかな。今夜は・・・サムゲタンでいいかな。
「・・・・あの人はいつ帰ってくるんだ?」
時刻はもう23時を回る。
眠れなくて図書室に篭って本を読んでいたけれど、その間に帰ってくるかと思いきや一向に待ち人は来ず。
玄関はうんともすんとも言わない。
「なんかムカつくな」
勝手にそっちで決めたことに、息子は従わずに外に出ているだなんて。
素直にココにいる僕がバカみたいだ。
「ココに来る前はあんなこと言ってたクセに。口だけなんだな」
"あなたをもっと知りたいからかまわない"
それは僕を知りたいのではなく、向こうの人たちが口にしていた"ディオ"という人物を知りたいのだろう。
違うと言ってるのに。
「こんなことしても無駄な時間を過ごすだけなのに」
どうして父と母はこんな約束をしたのだろうか。
疑問に思いつつも詰まる胸に考えないことにして再び読書に集中する。
自室の写真立ての両親に聞いても
返事など帰ってはこない
あの優しい声は
もう二度と
返ってくることはないのだから
……To be continued