Side D
夕飯の買い物から家に帰って来ると、自分の部屋のドアに挟まれた手紙が視界に入る。
「・・・・・・何コレ?」
とりあえずまずは買い物をぜんぶ片付けてから、ドアに挟まれた手紙を手に取る。
どうやら送り主は祖母からで中を確認すると、すぐに視界に入ったのはおめでとうの大きな文字。
「お、ギョンスおかえり。何見てんの?」
部屋から出てきたベッキョンに僕は助けを求めて手紙をベッキョンに手渡した。
手紙の内容を確認したベッキョンは僕と手紙を二度見して、苦笑いを浮かべるだけだった。
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Side K
「ねぇ、何コレ?どういうこと?」
テラスでティータイムを楽しむ母親に、先ほど目を通した手紙を突き出す。
「内容のとおりよ?明日ココにあなたのお嫁になる人が来るの」
「俺はまだ結婚しません」
「もう婚約届けは出しましたよ」
「俺はそんなものにサインしてません」
「あら、昨日行ったレストランでサインしてたじゃない」
「・・・まさか、はめたんですか?」
「ふふ、さすがお姉ちゃんよね。弟のことをよくわかってるわ」
楽しそうに笑う母親に、もう何を言っても無駄だとわかり頭を横に振る。
昨日、久しぶりにフランスから帰ってきた姉の誘いで行ったレストランで、ヤケに気色悪く笑っていたのはそういう事だったのか。
「とにかく!俺は会いませんから!」
それはどうかしらね〜と陽気な母親の声を背中で聞き流して自分の部屋に戻る。
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Side D
手紙を前に僕は頭をかかえていた。
なぜ、こうなってしまったんだ・・・。
「なぁ、何かのイタズラとかじゃないのか?」
「僕もそうであってほしい。けど、さっき一緒に僕のおばあちゃんに電話で確認したじゃないか」
心配して言ってくれてるとわかっているけど、今の僕には余裕なんてなくて冷たく言い放ってしまう。
黙って心配してくれるのは、現在同居してるチャニョルとベッキョン。
「・・・・・・ごめん。八つ当たりした」
「いいって。気にすんな。俺だって同じ状況だったら八つ当たりしまくるって」
「いつものことじゃん」
「うるせーヨーダ」
ぎゃいぎゃいと言い合いはじめるけど、僕のせいで固まった空気を一瞬で和ませてくれるふたりに感謝する。
「けど、まさか、この間行ったときに書かされたボランティアの参加名簿が実は婚約書だったとはなぁ〜」
「俺たちも書いたけど、全然気づかなかったな」
「ふたりが仕掛け人でなくてよかったよ」
偶然にしては無理がある祖父母の仕掛けにあっさり騙された僕は、明日の午後にこの地域で金持ちで有名なキム家に訪れることになってしまった。
「あそこのキム家って確か三男だったよな」
「確か三人ともまだ結婚してないよな」
「だからってなんで男の僕が・・・」
がっくりと項垂れるとあっ!と声を上げるチャニョル。
「確か長女もいなかったっけ!ほら、あのスラッとしたスタイルの女の人!」
「馬鹿、その人は今フランス人と結婚して向こうで双子生んだって言ってただろ」
「ああ・・・ 」
「とりあえず、明日キム家に行ってなかったことにしてもらうよう話すよ 」
もうそれしか方法は無いし。
「おいおい、もしキャンセル料払えとか言われたらどうすんだよ」
「馬鹿チャニョル。そんなことねーから、黙っとけ」
「ひどい!心配して言ってんのに!」
「はいはい、喧嘩はおしまい!夕飯作るからふたりとも手伝って」
また言い合いがはじまるふたりの間に割り込むふたりの腕を掴んでキッチンに引きずる。
今の僕には友だちと過ごすこんな些細な日常がとても幸せなんだ。
結婚なんて・・・今はまだ考えてない。
相手が男なら尚更だ。
明日、絶対断ろう。
……To be continued