いつからだったか。
俺の隣にはお前がいるのだと思っていた。
それが、あたり前に思っていた。
サッカー仲間にルハニのことを聞くと、一目散に事務所へと走り出したセフナ。
俺はその背中を追いかけることも、腕を引っ張って止めることもしなかった。
いや、できなかったんだ。
すれ違うときに見えた眼に、セフナの気持ちがわかってしまったから。
いつからだっけ?
隣が寂しく思いはじめたのは。
いつから、だっけ?
セフナがいないと不安になったのは。
いつから・・・だっけ・・・・・・?
俺が・・・・・・・・・・・━━━━━
「バカだなぁ・・・俺」
今更気づくなんて。
遅すぎるよ。
わかっていたはずだ。
いつまでも一緒にはいれないと。
わかっていたはずだ。
俺は入り込めないこと。
わかっていたはずだ。
ルハニの気持ちを。
だから、わかっていたはず、なんだ。
「わかっていたはず、なのにな。」
傷つくのがこわくて。
自分の気持ちに気づかないフリをしていた。
「・・・ョン?・・・ミンソギヒョン?」
いつの間にか瞑っていた目を開けると、心配そうに俺よりもデカい身体を屈ませて覗き込むジョンインが視界にはいる。
「ヒョン、痛いの?」
「え?」
子犬が飼い主を心配するような目でじっと俺の目を見るジョンインから発せられた言葉に戸惑うと、その大きな手で俺の顔を包む。
「ほっぺが冷たい」
そこでやっと自分が泣いてることに気づいた。
「ヒョン、ここから逃げないでね。今ギョンス呼ぶから」
ジョンインは俺にハンカチを渡すと俺に背を向けてスマホを取り出しボタンひとつで電話をかける。
ワンコールではじまった会話はすぐに切れて、背中越しで見るジョンインはなんだか嬉しそうだった。
「嬉しそうだな」
「うん。ギョンスが来てくれるからね」
幸せそうにふにゃりと笑うジョンイン。
そんな彼が先ほど言った言葉がひっかかる。
" 逃げないでね "
それは、、、何から?
「ギョンス!」
頭の上で嬉しそうに大声で呼ぶジョンインの目線の先には、公園の出入口で呆れた顔したギョンス。
その手にはなぜか大量の黄色い花が。
「ったく。突然呼び出すんだから」
「ギョンス、どうしたのそれ?」
人の話を聞いてるのかどうなのか、ジョンインはすぐさま花のことを聞いた。
うん、まぁ、俺も気になるんだけどな。
「ちょうど通りかかった花屋に押し付けられちゃって」
「は?なにそれ!なんで断らなかったのさ」
「断らなかったんじゃなくて、断れなかったんだよ!」
「はぁ〜ヒョンはお人好しすぎるよ。頼まれたら断れないんだから〜」
「断る前に話が終了したんだってば」
なんて言い合ってるふたりはなんだか楽しそうで。
あぁ、
前までは俺とセフナもこんなだったなぁ〜
っとひとり落ち込んでいると
「で?どうしてミンソギヒョンは泣いてるの?まさか、ジョンイナ泣かしてないよね?」
「ち、違うよ!そんなことしてない!しないよ!」
ふいに出てきた自分の名前に驚くと、ギョンスがジョンインから渡されたハンカチを俺の手からとり、流れっぱなしの涙を拭ってくれた。
「・・・セフン、のことですか」
セフンと名前が出てきただけなのに過剰にびくついてしまった。
「・・・ヒョン。何があったのかはわかりませんが、諦めるのは早すぎると思いますよ」
「え?」
「ヒョンは自分の気持ちをセフンに伝えたことはありますか?」
いや。伝えるもなにも今さっき気づいたばかりだから、、。
言ってはいないけど・・・。
「ひとりで何でも解決するのはミンソギヒョンの悪い癖ですよ」
「!」
「ヒョンが思ってることは言葉にしなきゃだれも伝わりません」
あたり前のことなのだけれど、どうやら俺にはそれが難しく、ヒョンなのに弟分に言われるなんてな・・・。
「・・・そうだな」
ヒョン失格じゃん?
けど、せっかく背中押してくれたんだし。
結果はわかってるけど、伝えよう。
俺の気持ち。
フラれたって時間が解決してくれるはずだ。
ルハニもセフナも無視するようなふたりじゃない。
「じゃあ、ヒョンには勇気をあげます」
「え?あ、おい!」
あげると言って半ば無理矢理手渡された黄色い花束。
あれ?
コレ、意外と結構量あるぞ?
「その花、なんていう花かわかりますか?」
「・・・チューリップ」
「黄色いチューリップの花言葉って知ってますか?」
もちろん花には興味ないから花言葉なんて知ってるわけもなく首を横に振ると、ギョンスは優しく微笑んだ。
「赤いチューリップなら"永遠の愛"ですが、黄色いチューリップは"報われない恋"と言われます。けれど、オランダの方では名声、勇気、希望とも言われ、黄色いチューリップを贈って告白するなんてこともあるんです。(諸説あり)」
「ヒョンもセフナにこの花贈って想い伝えてみてください」
ふたりともカラダの前にガッツポーズをして応援してくれて、花を贈るなんて母親にもしたことないから恥ずかしいけど、そんな告白も悪くないなと思った。
「ふたりともありがとう」
にっこり笑うとジョンインが「でも・・・」と言葉を続ける。
「優先順位を間違えたセフナには一度痛い目みせてやらないとな」
「?」
「そうだね。こんなすれ違いもあるんだな〜とは思ったけど、今回はぜんぶ余裕ぶってたセフナが悪いね」
「??」
「「セフナにはちょっと走ってもらおう」」
ニヤリと何やら怪しい笑みを交わしたギョンスとジョンイン。
ふたりはすぐさま携帯を取り出しそれぞれ電話をかけると、なぜかメンバーが増えて作戦会議がはじまり、俺は腕を捕まれて連行された。
な、なにが起きてるんだ?
……To be continued