「どこがすき?」
なんて言われてもどこだと答えられない。
だって、1部をすきになったわけじゃなくて、存在すべてに恋をしたから。
「ヒョン!ミンソギヒョン!」
「ん?どした、セフナ?」
小さな背中を呼び止めれば、くるりと可愛らしい笑顔をこちらに向けて首を傾げる。
そんな些細な仕草にいつも胸が締めつけられる。
「サッカーやりましょ!」
「えぇ~?またぁ?」
「みんなに言われるんですよ。ミンソギヒョンを連れてきてくれって」
なんてみんなに言われてないとしてもミンソギヒョンしか誘いませんが。
「しょうがねぇなぁ~」
「ありがとうございます♪」
「終わったらセフナが奢れよ!」
「ん~ヒョンが僕に勝ったらね」
練習あとはいつも公園で数人とサッカーしてヒョンとカフェに寄って帰るのが日課。
実はこの練習あとが楽しみだったりする。
ん?なんでかって?
そんなの決まってるじゃん。
ミンソギヒョンがすきだからだよ。
今日もその日常がやってくると思ってた。
その時までは。
「ミンソガぁ~♡♡♡」
「ぅわっ?!ルハニ?!」
僕らがいつもの公園についた途端、ミンソギヒョンに一目散に飛んできた男。
その男をミンソギヒョンは知ってるらしく、愛称で呼んでることにムッとする。
「なんでお前ここにいんの?」
「オレもサッカーしに来た!オレとミンソガは同じチームね♡」
隣にいる僕のことなど眼中にないのか、ミンソギヒョンを熱い視線でニコニコ笑うその男に、そして、その男に誘導されるまま僕のことなど見えていないミンソギヒョンにイライラが募る。
何なんだ、この男。
しかも、横目で僕を見て、ほくそ笑んでるとこがムカつく。
「よ!セフナ」
「ジョンイニヒョン。あの人だれ?」
「あぁ、ルハニヒョン?ジョンデヒョンが連れてきた助っ人だって。さっき知ったんだけど、あの人中国人なんだって」
「え?韓国語スラスラじゃん」
「うん。俺もそう思ってたから中国人って聞いてマジでびっくりした」
やるな。
僕も信じられないくらい驚いてる。
ただ、顔にあまり出ないだけで。
「ああ、あと、もう一つすごいのがさ」
「ジョンインー!セフナー!始めるぞー!」
ジョンデヒョンに呼ばれてジョンイニヒョンの言葉は遮られてしまったけれど、ヒョンが言いたかったことがすぐにわかるとは思いもしなかった。
バシュッ
「いぇーい!勝ったァ!」
ここ数ヶ月、ミンソギヒョンと戦って初めて負けた。
なぜかって?
悔しいけどあの男とミンソギヒョンの息がぴったりで、ふたりの連携プレイに完敗。
「ルハニ!」
「いぇーい!ミンソガ♡」
「俺久しぶりに勝ったよ!」
「そうなの?じゃあオレのおかげだね♡帰りにカフェでも寄って祝お♪」
「うん!」
嬉しそうに笑うミンソギヒョンの笑顔に胸がチクチクする。
もちろん、サッカーに負けたからではない。
「またやろうな~♪」
「バイバ~イ♪」
僕のことなどすっかり忘れたミンソギヒョンに置いて行かれ、ヒョンはあの男と居ることが多くなっていった。
バシュッ
「「いぇーい!勝ちぃ~!」」
あれから数週間たっても完敗し続けた。
ルハニヒョンは頻繁に来るようになり、決まってミンソギヒョンと組んで、帰りもヒョンを持っていかれてしまう。
「あぁああー!今日もルハニヒョンたちに負けた!」
「リベンジあるのみ」
「…お前の根気強さ尊敬するよ」
「あの人には負けたくないからね」
「ミンソギヒョンのことも?」
「当然」
ずっと想い続けてきたこの気持ちを、横から出てきた雑草に邪魔されたくない。
何度もチャレンジし続けた。
ある時、靴ひもを結んでいるとだれかが僕の前で立ち止まった。
見上げると悪戯っ子な顔してにんまりとしてるルハニヒョンだった。
「お前も懲りないな」
「ヒョンには負けたくないんでね」
「ふはっ!そう言われちゃあ今日も勝つしかないね♪」
「サッカーだけじゃないですよ」
「え?」
「ミンソギヒョンは渡しません」
ルハニヒョンの目をまっすぐ見てからすぐに自分の持ち場へ向かった。
バシュッ
「ぅおおおお!やっと勝ったァ!」
ジョンイニヒョンが雄叫びをあげる横で僕はまったくしっくりこなかった。
だって、勝ったのはルハニヒョンがいない相手だから。
こんなの勝負にならない。
「あぁ~久々にセフナに負けた」
「…ミンソギヒョン。今日ルハニヒョンは?」
「俺もわかんない。今日も来るって昨日までは言ってたけどな」
昨日。
僕がルハニヒョンに宣告した日。
まさか、逃げたのか?
いや、あの人ああ見えて負けず嫌いだからそんなことするわけないか。
明日は来るだろう。
そう思ってた。
だけど、ルハニヒョンはあれからぱったり来なくなってしまった。
「今日もルハニヒョンいないんですか?」
「あ、ああ…そう、みたい」
なんか、引っかかる。
あの人が僕の宣戦布告に臆するとは思えない。
「あれ?ルーハンいないのか?」
あとから来たひとりが首を傾げる。
「さっき、練習室にいるのは見て、今日来るか?って聞いたら行くって言ってたのにな」
「!それ、いつ?!どこの練習室?!」
「え?えと、俺が練習終わったあとだから20分前かな。確か2階のダンスレッスンだったと思う」
僕はすぐさま事務所に戻り全速力で走った。
その時の僕はルハニヒョンのことで頭がいっぱいで気づかなかった。
ミンソギヒョンが哀しそうな顔してたなんて、、まったく気づかなかった。
走って走って、事務所につく頃には汗でドロドロだった。
階段をあがって2階のダンスレッスンに向かい扉のガラスから中を除くと、背中を丸めるルハニヒョンがいた。
間に合った、まだ居た。
扉を開けて入ると、ルハニヒョンの肩がびくりっと動いて、顔を拭って振り向いた。
その目は赤くなっていて、誰もが泣いていたのだとわかるくらい腫れていた。
「な、ヒョン、どうしたの?!なんで、泣いて「ない!」 」
僕の声を遮り、また背中を向けるルハニヒョン。
こんなヒョンの姿、はじめて見るからどうしていいかわからない。
「…ルハニヒョン、どうしてサッカーしに来ないの?」
「……」
「ヒョン?」
「ッ来るな!バカ!」
「バカじゃないっすよ」
「バカだろ!なんでここに来てんだよ?!ミンソガは?!」
「?公園ですけど、、」
「ほんっとにバカだな!せっかく人が諦めようとしてんのに何してんだよ!」
「??」
さっきからルハニヒョンの言ってることが全然わかんない。
「諦めるって何に?まさか、ミンソギヒョンのこと?」
「っ…」
「イヤだ。僕は正々堂々と勝負して貴方に勝ってミンソギヒョンを振り向かせたいんだ」
「……げーよ、、」
「サッカーだって、ふたりの連携プレイに負けっぱなしはイヤだ。絶対勝ってみせる。だから、来てよ」
「ちげえっつってんだろ!バカ!」
涙を流して、赤い目で思いっきり僕を睨むルハニヒョン。
てか、また、バカって言われた。
「オレが好きなのはミンソガじゃない!」
「……ん?」
「オレが好きなのはお前だ、バカ!」
「……はい?」
「お前をはじめて見たときからすきになって、オレに振り向かせようとミンソガを利用した。お前がオレを見てることが凄く嬉しくて。だけど、この前セフナにミンソガは渡さないって言われて、今まで自分が勘違いして自惚れてたことを知って、恥ずかしくて、バカみたいで、、、、、オレの気持ち、今、滅茶苦茶だ……」
まさか、ルハニヒョンに告白されるとは思わなくて、どうしたらいいかわからなくて、今僕の頭はフリーズ中。
え?え?
ルハニヒョンが?僕を好き?
「え?ヒョンがすきなのはミンソギヒョンなんじゃ?」
「…人の話し聞いてたのか?」
「ちゃんと聞いてましたよ。けど、信じられなくて」
「別に信じなくていいよ、もう。お前がどんだけミンソガのことすきがもう充分わかったから」
床に崩れて項垂れるルハニヒョンにとてつもなく罪悪感を覚える。
僕はしゃがみこんでそっとルハニヒョンを抱きしめた。
「ヒョン。僕は今まで貴方を恋敵とばかり思って、サッカーにもミンソギヒョンにも負けたくなくて必死で、ぜんぶ自分の思い込みだと気づかなかった」
ルハニヒョンは大人しく僕の腕の中で黙っていた。
貴方のことだから、きっと、聞いてくれてるよね。
「ルハニヒョンの気持ちに応えることはできない。だけど、僕はヒョンとしてルハニヒョンのことすきです。それじゃダメですか?」
「………」
「ヒョン?」
「………いつかな」
なんとも意地っ張りなヒョンの答えに嬉しくて、「よかった」と呟くと、「いいわけねぇだろ!」と思いっきり顎に頭突きを食らった。
「いった、、何すんすか!」
「丸く収まったと思うな!今はまだなだけだかんなッ!」
「それはわかって「それと!」」
また人の話を遮ってこの人は……
「お前は今すぐミンソガのとこに戻れ!」
「…はい?」
「おまえってほんとにバカだな!鈍感!」
「なんでそこまで言われなきゃいけないんすか」
「ミンソガが待ってるからに決まってんだろ!」
「……え?」
「今、絶対ミンソガ勘違いしてるぞ」
何に?
なんて聞く前にルハニヒョンは答えを出してくれた。
「セフナはオレがすきなんだと勘違いしてる」
それは、ヤバい!!
僕はすぐさま立ち上がり、事務所を出た。
向かう先はもちろん、ミンソギヒョンのもと!
To be continued ……